「急に具合が悪くなる」主演女優2人が感涙した原作者の1人・磯野真穂氏スピーチ全文

「急に具合が悪くなる」主演女優2人が感涙した原作者の1人・磯野真穂氏スピーチ全文4

(撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ)

 映画『急に具合が悪くなる』(監督:濱口竜介/配給:ビターズ・エンド)ジャパンプレミアが5月27日に東京・TOHO シネマズ日比谷で開催。W主演のヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒をはじめ、俳優・長塚京三、黒崎煌代、濱口竜介監督が登壇するとともに原作者の1人である磯野真穂氏が花束ゲストとともに、スピーチを読み上げ主演の2人を涙させる一幕があった。

 映画『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞(R)国際長編映画賞を獲得した滝口監督最新作。哲学者・宮野真生子氏と人類学者・磯野真穂の往復書簡集をもとに作り上げられた作品。介護施設で理想のケアの在り方を探求すパリ郊外の介護施設『自由の庭』の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(エフィラ)と、独創的な舞台演出家でありステージⅣのがん患者である森崎真理(岡本)。同じ名前を持つふたりが偶然に出会い真理が“急に具合が悪くなる”ことによって、やがて友情という枠組みをも超えた深い絆を結んでいく姿が描き出される。

 イベント後半に磯野氏が祝福に駆けつけ主演の2人に花束を手渡した後に、スピーチを寄せた。以下全文。

 『(濱口)竜介は私たちに、冒険を経験させてくれた。でも、冒険という言葉は小さすぎる。それは永遠に刻まれる人生の経験だった』

 エフィラさんは受賞後、こんな美しい言葉を選んで語ってくださっています。

 岡本さんは、「エフィラさんとの間で、原作の書簡で起こっていることと同じようなことが、私とエフィラさんの間に起こったように思う」と、とても丁寧な自筆のお手紙をくださいました。

 ドイツの児童作家ミヒャエル・エンデが書いた童話『モモ』の中に登場する時間の守り人、マイスター・ホラは、「宇宙には全く一回きりしか起こり得ないようなやり方で互いに働き合うような瞬間があり、それは『星の時間』と呼ばれるものなんだ」とモモに語ります。その瞬間は、後にも先にも起こり得ないようなことが起こるけれど、大抵の人はそれに気づかず、星の時間はただ過ぎ去ってしまうのだ。(もう1人の原作者の)宮野さんと私の間に流れていたのは、紛れもない星の時間でした。

 そして、その星の時間はエフィラさんと岡本さんの間にも流れていたのではないかと思うのです。では、その星の時間が可能になるのは、どんな時なのでしょうか。

 私はカンヌでここにいらっしゃるみなさん、さらにはフランスの俳優のみなさんが口にしている言葉を聞き、その答えを得た気がしています。みなさん口々に、「濱口さんは敬意を持って自分たちに接してくれた」、「人間として扱ってくれた」そうおっしゃっていました。

 この映画は、技術だけで作られているわけではない。「目の前にいるその人全体を大切にしよう」。濱口さんのそのような真摯な姿勢が、波紋のように俳優とスタッフの間に広がったからこそ、星の時間が生まれうる天空が立ち上がり、星の時間が顔を出した。主演の2人はそれを掴み取って、その星の時間を生きたのではないかと思います。

 とはいえ、人を大切にするとは、とても根気のいる泥臭い作業です。実際、濱口さんは、5年という歳月をかけて、私たちの書簡を大切にしようと、音読までしながら、何度も何度も向き合い、その底を流れる文字になってはいない私たちの声を汲み上げようとしてくださいました。

 この映画には、目の前の何かを大切にするという華々しさとは正反対の作業に心を砕いてくださった多くの方たちがいます。

 観客のみなさん。3時間を超える長い映画ですが、この作品は、このように作られているので、エンドロールまで楽しんでいただきたいと思うのです。この映画は、それだけの価値がある作品です。

 最後になりますが、ヴィルジニー・エフィラさん、岡本多緒さん受賞を受け、エフィラさんが岡本さんの手を引きながら壇上に上がり、涙を浮かべながら満面の笑みで互いを讃え合っている姿を見たとき、あまり重ねてはいけないと思いますが、私と宮野さんが、見たいと心から願っていたその光景をお2人が、見せてくれたように思いました。世界から愛されるだけではなく、世界を愛する俳優として、私の見えない高い高いところにまで、どうか羽ばたいていってください。本当におめでとうございました。

 以上

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スピーチ後涙する一同

 スピーチ中、磯野氏は涙をこらえながら伝えるとともに、この気持ちのこもった言葉に、岡本もヴィルジニーも感涙する様子を見せていた。

 このスピーチに岡本は「私はこの原作読ませていただいた時から、これをどうやったらこの魂を映画に落とし込めるんだろうって思ってたので、何度もこうやってお二人のことが思い出させられるようなシーンがあったとか、二人を見ててそう思ったって言ってもらえることがもう全てだなと思って、本当に頑張ってよかったなと思います。ありがとうございます」と、しみじみ。

 ヴィルジニーは「人生の中で本当に“生きてることに意味があるんだ”“私がやっている全てのことに意味があるんだ”と思う時っていうのはなかなかないんです。でも磯野さんの言葉を聞いて、いまそう感じています。本当にありがとうございます。監督がよく言っていたんですけれども、『一緒に道を描いていこう、線を引いていこう』っていうことを言っておりました。それは本の中にもあったと言っていらっしゃいました。こうしてあなたと一緒にこの線を描いていく道を開いていくことができて嬉しかった」と、涙をぬぐいながら話していた。、

 映画『急に具合が悪くなる』は6月19日よりTOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー予定!

 取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ

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