アイドル・和田彩花が6月3日に東京・渋谷のユーロライブで映画『ラ・コシーナ/厨房』(監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス/配給:SUNDAE)トークイベントを映画評論家・森直人氏とともに開いた。
イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーが書いた1959年初演の戯曲『調理場』を原作に、舞台をニューヨークの観光客向けレストランに移した作品。スタッフの多くが移民で構成されたニューヨークの観光客向け大型レストラン『ザ・グリル』のなかで、メキシコ移民の主人公ペドロと彼の恋人で秘密を抱えるアメリカ人ウェイトレスのジュリアらの人間関係をユーモラスかつ、ときに痛烈に描きだしている。
作品を観た感想として、「ずばりセリフが格好いいなと思いました。私もエッセイや詩を描く側なので」と感じ入ったそう。その部分に惹かれたのは和田のこれまでの映画体験にあるようで、「これまで映画を見ているときに現実とはかけ離れすぎている描写が多いなと思うところとか、社会的なことって身近なことだから、映画の中でなんで語れないんだろうと思ってたんです。でもこの作品は、社会問題をみんなで口にして出しているというところがあって、それが普通に描かれているのが格好いいなと思ったんです」と説明していた。
そんな作品なだけに、心に刺さったセリフは「ありすぎて(笑)」という和田。「女性の視点に立って考えることが多いと感じました。女性が『一人で婦人科にいける』と言っているのに、『ついていくんだ』とか、女性の意見を無視しているところが印象的でした。この映画はビザの取得を目指して頑張るという立場だったと思うので本来なら差別を受ける側だったと思うんですけど、差別までは行かないけど理解は乏しいという感じがしたり……。生まれてくる子どもにも家族主義的な部分もあって、『父の名前をつけるんだ』とか言ってて、何この人言ってるの!?にもなって」と、次々挙げていく。
さらに、共感した部分として、「一時的にはあるんですけど外国で生活をしていたこともあるんです。母国語が通じない環境のなかでやりとりをするって、ストレスがめちゃくちゃ大きいんです。映画の中でも、ペドロが母国語で泣き叫ぶことができないという状況は共感しました」と、しみじみ。
映像部分に関しては本作がモノクロで作られていることへ、「もしカラーだったら目をそらしてしまうのではないかと思って。だから、モノクロじゃないと観れないなと思って」と、自身の中でショッキングな仕上がりという。撮影にも「動的なものと静的なものが組み合わせられているのが良いなと思って。その一方で、面接のシーンは固定されていて、その対比もいいなって思うんです」と、カメラの動きにも見入ったと話していた。
また、和田といえば、アイドルグループ『アンジュルム』として過去に活動し、いまはフリーで活動している。現在の自身は「社会派の立ち位置にいる」と話しつつ、「アイドルをやっていましたけど、アイドルグループにいるときは、社会派の話などに接点を持っていくということが表立ってできなくて、ストレスを感じていた部分があって。見せない部分で社会派のものには触れていましたが、自分の大好きなものを大切にしていきたいというものがありました」という。
劇中の人物のようにつらい体験をしたことはある?と、森氏が投げかけると「デビューしたときに、忙しすぎてみんなで脱走計画を立てて、実際に脱走したんです。けど、すぐに捕獲されてしまって、ずっと説教されたという思い出もあります(苦笑)。リハーサル中にちょっと発狂しちゃったこともあって。そのときは、人間関係に疲れていて、気づいたら叫んでて、と割とそういうこともあったんです」と、アイドル時代のことを振り返ることも。
さらに作品を観て考えさせられることもあったようで、「最後の方で、オーナーが『衣食住を与えているのに、お前は何を望んでいるんだ?』と聞くんですけど、私自身も望むものは何なんだろうって考えてて。衣食住は人間のベースにはなるけど、それ以外の人間の扱いをされるというのはこの人たちが望んでいることなんじゃないかなと思って。衣食住を提供することと、人間らしくいることって別なんだなって感じているんです。私が仕事をしていたときも、忙しすぎて人間らしく生きていられなかったという部分もあったので、すごく共感できたんです。自分たちも意識してそこはみたいという部分もあります」と、自身の体験と照らし合わせて話していた。
映画『ラ・コシーナ/厨房』は6月13日より公開予定!
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ