大手電気機器メーカー『シャープ株式会社』とオーストラリア・クィーンズランド州のエネルギー企業『エネルギー・ストレージ・インダストリーズ・アジアパシフィック』(ESI)が10月2日に大阪・関西万博内のオーストラリアパビリオン内でフロー型亜鉛空気電池技術の共同開発に関する覚書(MOU)を締結した。
電気化学システムに関して専門性を持つシャープと、オーストラリア全土における長期エネルギー貯蔵インフラの導入実績や、鉄フロー電池の商用化を2026年に進めているESI。そんな2社がクィーンズランド州政府貿易投資庁の声がけに応じ、タッグを組む。現在シャープが持つ、フロー型亜鉛空気電池技術を、ESIと2社で共同開発を行い、この実現可能性を検証していく。
フロー型亜鉛空気電池技術の技術的に優位な点は大きく3つ。1つ目は、現在リチウムが使われた技術が主流になっているが、リチウムが産出国や精製国が限られることから高価で、需給ひっ迫のリスクがある。そうしたリチウムを使わず、亜鉛を使用するフロー型亜鉛空気電池技術は、多くの地域で産出・精製されるため、安価で供給の安定が見込めるという。
2つ目は、フロー型亜鉛空気電池技術では蓄電池の充放電を担うセルと蓄エネルギー物質の貯蔵部の電解液タンクが各々独立した構成で、この蓄エネルギー物質の電解液タンクを大きくすることで大容量の蓄電ができるという。これにより、これまで蓄電池を大量生産して蓄電していたものが、コストダウンを見込めるという。
3つ目は、亜鉛を浸す電解液には水系の液体を使用しており、発火の可能性が低く、有機溶剤(非水系)を用いた蓄電池より、高い安全性があるという。
会見に出席したシャープ株式会社 研究開発本部長の伊藤典夫氏は、フロー型亜鉛空気電池技術について、「国内ではやっているところは私の理解ではないと思っています。海外には、同じような形でベンチャー会社がやっていると思います」と取り巻く環境を説明。現時点でどれくらいまで本技術ができあがっているのかへ、「課題はありますが実用化に近いところまできています」と進捗を。
その伊藤氏の挙げた課題は大きく2つあるといい、1つめは、「電気を発生させるための効率です。世の中にはいろいろ電池がありますが、そこに比べると少し課題があるかな」といい、もう1つは「継続して電気を発生させるという継続性がまだまだ改善の余地があると思っています」とのこと。今回の共同開発でシャープとしては、高い技術親和性を持つ鉄フロー電池技術を商用化にまでこぎつけESIとの連携によって「まずは技術的な融合を目指します」と、期待を寄せた。
そして、検証の結果が良好な成果だった場合、シャープとESIはさらなる研究助成金の獲得により商用化を目指していくとしており、伊藤氏は、「ビジネスに変えていくときにサプライチェーンをESI社と連携して作っていきたい。フロー型の電池事業を加速させて、カーボンニュートラルと言われる世界を加速させたい」と、意気込む。
具体的にいつまでに開発するのか?という質問も飛んだが、伊藤氏は期間の方を具体的に伝えることは差し控えるとしつつも自身としては、「こうした面白い技術をは少しでも早くと思っています。そこで、シャープのメンバーにもESIさんにもハッパをかけてやっていきたい」と、気持ちを話していた。
なお、次世代エネルギー貯蔵の革新に向けた国際的なハブとして、クィーンズランド州を位置付ける予定とのことで、クィーンズランド州政府貿易投資庁が支援することも明かされた。
その後交わされた覚書は、クィーンズランド州政府駐日北東アジア統括代表の安達健氏の立ち会いの下に開催。ESI Asia Pacific Pty Ltd DirectorのStuart Parry氏はオンラインで参加となった。
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ