内田彩 マイクとパンダを間違える伝説はリバイバルされたのか?10周年記念ライブ

内田彩 マイクとパンダを間違える伝説はリバイバルされたのか?10周年記念ライブ10

 声優・内田彩が9月15日に神奈川・関内ホール 大ホールにて『AYA UCHIDA 10th ANNIVERSARY FINAL LIVE ~Re:birthday~』昼夜2公演でのライブを開催した。

 以下、公式レポート部分。

 2014年11月、デビューアルバム『アップルミント』を発表した勢いままに、プログレッシブかつ幅広いサウンドアプローチの名曲を次々と生み出し、今日までの声優音楽シーンを大いに賑わせてきた内田。昨年11月からはアニバーサリーイヤーとして“にぎやかな10周年”に突入しており、今回のライブもその締めくくりに位置づけられたものである。

 順に、昼公演は『AYA UCHIDA Re:1st SOLO LIVE ~アップルミント Baby, Are you ready to go?~』として、2015年5月に2days開催した初のナンバリングライブをほぼそのままリバイバル。夜公演にあたる『AYA UCHIDA 10th ANNIVERSARY FINAL LIVE ~Re:birthday~』では逆に、今年7月発表の最新アルバム『Re:birthday』を軸として、最新モードのアーティスト像を示してみせてくれた。

 遡ること約10年前。当時の会場にも、開演前から不思議な期待感が漂っていたのをよく覚えている。ただ、あの頃の“そわそわ感”ではなく、今回感じたのはファンの圧倒的な頼もしさ。当時こそ彼女の存在をまだ知らなかった新たなファンも含め、サイリウムで一面をアップルミント色に染める光景を見て、彼らの気持ちの仕上がりぶりが伝わってきた。

 そこから、かつてと同じ開演SEが気持ちの高まりをさらに煽ると、内田が「アップルミント」とともにステージに。“赤りんご”を思わせる衣装に身を包みながら、サビの〈ドキドキしながら〉のひと文字ずつに合わせて、アイコンのポニーテールを細かく揺らしてくれる。そんな光景が早くもエモーショナルの結晶に見えてきて仕方がない。

 歌声も、あの頃のピュアさそのまま。それでいて手探りだったあの頃とは違う、力強い演奏が響き渡る。それもあってか〈もうずっと前から始まってた〉〈準備できたら どこへでも行けるよ 迷うことなど 一つもないよ〉といった歌詞が、普段以上に意味を持って届いてくる気さえした。

 そのまま「オレンジ」「Merry Go」と続いたあたりで、今回のセットリストが当時の曲順を踏襲したものだと半ば確信。同時に、本ライブを新鮮な目線から楽しむファンの立場になってみても、『アップルミント』が名盤なだけにどんな曲が来ても楽しめてしまうし、それ以上にポップとロックのバランスがとても自然な最高のセットリストだと考えさせられた。この後の「10年前を懐かしむもよし」「10年というみんなとの歴史をなぞっていけたら」という意気込みのMCが、彼女と過ごしてきた各々の時間を肯定してくれたようにも聞こえる。

 次ブロックは、9月29日(月)20時までニコニコ生放送にて販売されている、本公演の見逃し配信にて、ぜひとも映像付きで確認してもらいたい楽曲ばかり。披露順は前後するが、この10年間でファンが最大の愛情を育んできた「ピンク・マゼンダ」は、内田の足元に注がれたレーザーなど、マゼンダの世界が開けていく感覚を照明演出が視覚的にもたらしてくれた一曲。「キックとパンチどっちがいい?」では、“あの頃よりも気持ち強めじゃないですか?”とふと疑いたくなるほど、序盤から思いきりのよいキックとパンチを遠隔でお見舞いしてくれる。ラスサビで、ふたつの攻撃が歌詞とあべこべで繰り出されるのも愛おしい。

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 そして「泣きべそパンダはどこへ行った」である。内田は歌唱時、自身が装着するものとファンが持参してきた“パンダ共演”に胸を弾ませていたというが、この曲といえばかつて、2コーラス目冒頭でマイクとパンダを間違える伝説が(ちなみに、今回の物販で販売されたアクリルフォトフレームに、この瞬間を切り取ったブロマイドが付属していた)。はたして、今回はその点も含めてリバイバルとなるのか? 同パートに差し掛かった際、マイクとパンダの両方を胸元に引き寄せた内田。“頼む、パンダの方であってくれ……”と、会場の声なき期待を一手に背負うこととなったパンダ。その運命やいかに?

 本編で、アルバム収録の全11曲。アンコールでは、2ndアルバム表題曲「Blooming!」などを歌い終えたところで、舞台袖にはける内田……だったものの、「ごめん、忘れてた! 違うの! まだです!」と、すぐさまカムバック。そう、“この曲”を歌わなければ、AYA UCHIDAの歴史は本当の意味で始まらない。約10年前、ステージでの緊張が解れてきたあたりで、気を抜いて歌詞を大飛ばししてしまった「Breezin’」。あのとき、アンコールに入っての“やり直し”がなければ、この音楽活動における“負けん気”は育まれていない。たとえハプニングであっても、起こることすべてを愛せるようにーーそんな成長を実感させてくれる一幕なのだった。

 昼公演の最後に披露したのは「with you」。唯一、当時のセットリストにはなかった曲である。ただ、この曲はいまや歌詞が本来的に持っていた意味を超越して、内田とファンを繋ぐ大切な架け橋となっただけに、歴史すらも超越してしまったに違いない。そんな歴史をこれから知っていくファンがいたとしても、この曲は純粋に客席で浴びていて楽しいから問題なし。冒頭、10年間を通しての「変わっても変わらなくても、みんなと一緒にいたら楽しいよー!」という最高の賛辞が即興で届けられたのだが、もし愛情になにか形があるとしたら、まさしくこんな感じだろうと思えてしまった。

 あの“伝説の二夜”をリバイバルした今回のライブ。中盤のMCに出てきた「私もみんなも曲たちも、10年分の栄養がいっぱい蓄えられている感じがして、やっぱりライブが好き」「ライブでみんなと作ってきたんだな」という言葉は、内田の音楽活動の充実ぶりをなによりも象徴してくれていた。

 そのうえで、いまや84もの持ち曲があるがゆえに、今回のようにアルバム1枚のみにじっくりと向き合い、しかも同じ曲を複数回にわたり披露して、その時々での違いを味わう機会もなかなかないもの。そんな贅沢な時間は、自分のことで精一杯だった10年前の自分自身に贈る〈大きなマル〉付きでの“ご褒美”だったのかもしれない。

 もはや“ギグ”と称せた熱狂の昼公演に対して、初披露の新曲の多さからか、夜公演は“ショーケース”に近い見せ方に。純白のドレスワンピースに衣装が変わり、披露するは『Re:birthday』リード曲「Minty Smile」から。

 前述した「アップルミント」の系譜を辿る持田裕輔ワークスながら、こちらは先ほどまで聴いていた歌声の質感と異なり、何色もの大人っぽさがグラデーションのように雰囲気を帯びている印象。〈ライブハウスだった場所が公園になり〉〈今は駐車場だね〉という歌詞も時間の経過を表していて、実際に内田の歴史になぞらえてのものである。少しだけ感傷的になりながらも、最後は39歳の誕生日から合言葉となった「サンキュー!」で、会場と笑顔を交わすのだった。

 「Summer Lasting」「初めて会った日」などが連なる新曲パートのなか、特に光ったのが「fuwari」。内田にとって、ミドルバラードの新境地となったこの曲。またしても「アップルミント」の話となるが、内田の活動を追うなかで、作詞家・中村彼方の紡ぐ言葉に救われなかったファンはいないはず。〈走り抜けた 思い出の中で いつもわたし 微笑んでる/幸せって一度かじったら ずっとずっと味がするね〉という、幸せがなんたるかを改めて教えてくれるサビの歌詞が、ここまでの“にぎやかな10周年”、そして内田が10年間、走り抜けてきた活動の意味をすべて言い表してくれるかのようだった。

 演奏面では、ほか楽曲に比べてシンプルなのに難しく。それでいて難しいのにシンプルに聴こえるのが特徴的。思い出のオルゴールを開くかのように、清らかな主旋律を奏でるキーボード、神聖さすら覚えるカッティングのギターなどのバンド演奏。前述の中村彼方による歌詞。そして、慈愛に満ちた内田の歌声。すべての要素が三位一体となり、光の灯る方に向かって、我々をゆっくりと運んでくれる、浮遊感やノスタルジーを味わわせてくれた。

 本編後半に歌唱された新曲「Not Enough」「Veil of Lies」、あるいは10周年テーマソング「にぎやかな心たち」の模様については、昼公演での“パンダ&マイク”と同じくニコニコ生放送のアーカイブ配信をご覧いただきたい。「にぎやかな心たち」について少しだけ紹介すると、過去に「リリース当時と比べると、メロディに感じるにぎやか度合いも桁違いになった」と語っていた内田。本当にその言葉通りなのか。あわせて、披露のたびに途中で“へばる”のがもはや恒例化しているスタミナチャレンジ曲「ヘルプ!!」の行方とともに、ぜひご確認あれ。

 ここからは既発曲の話となるため、ライブ終演時に明らかになった新情報について、先に記させていただきたい。なんと、内田のデビュー記念日である11月12日に、自身初のリミックスアルバム『Re:mix – Nigiyaka na 10th Anniversary -』がリリースされることが決定。同作は“にぎやかな10周年”を締めくくるべく、「アップルミント」をはじめ、アニメタイアップソング「Sign」「Reverb」など、彼女の活動の軌跡を辿るような全11曲のリミックスバージョンを収録。リミキサー陣には、10年の音楽活動を支えてきた作家陣が名を連ねている。

 CDは、コロムビアミュージックショップ限定ですでに予約受付を開始しており、リミキサーズノーツや特典ブロマイドも付属。また収録曲「アップルミント – Emo phrase Re:mix by よる。& 俊龍 -」が、リリースに先駆けて配信されているため、こちらもぜひチェックいただきたい。

 ライブに話を戻して、本人曰く新曲続きで緊張した本編とは打って変わり、アンコールは“思い出の曲”でのお祭りに。そのなかで特筆すべきは、ファンが着席のまま“鑑賞”した「Ordinary」。内田が2016年に患った声帯結節、そして歌が歌えない状況を乗り越えて“当たり前の大切さ”を噛み締める一曲なものの、そうした本来の意味合い以上に、この日は感謝を伝えるメッセージソングとして選曲された印象がある。たとえ会場のどこにいようと。あるいは配信画面の先にいようと。内田と目を合わせて、“一対一”で対話をしてもらう感覚を覚えたに違いない。

 “にぎやかな10周年”のフィナーレに選ばれたのは「SUMILE SMILE」。先ほどの「Ordinary」の流れもあり、この10年間の感謝が溢れてしまったのだろう。歌い始めて間もなく、歌詞をなぞるかのように内田の瞳から涙がこぼれ落ちた。彼女の活動を長年追っていたとて、こうした場面を見た機会は数えるほど。“まるで元気”と言わんばかりに、あえて大げさに涙をぬぐって明るく努めようとしていた一方、やはり彼女の活動を振り返るうえで、笑顔と同じくらいに涙も欠かせない。本当に、すべてを代弁してくれる曲なのだ。

 とはいえ本人としてはかつての「Breezin’」のように、「後半、みんなと作ってきたライブの曲たちを歌ってたら“うるっ”と来ちゃってさぁ。最後の曲、ちゃんと歌えなかったので、いつかまたリベンジしたいと思います」とのこと。次回以降の“Re:”vengeをにこにこと誓ったところで、申し訳ないがこればかりは何度挑んでも変わらないと思う。むしろ、今回以上に涙してしまうのでは? なぜなら内田彩の音楽活動には、ともに笑顔で歌ってくれるファンの存在が、これからもずっと一緒なのだから――。

 テキスト:一条皓太
 撮影:上田真梨子

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