長澤まさみ、永瀬正敏、髙橋海人に浮世絵指導の松原亜実氏『おーい、応為』へ「熱意の賜物」

長澤まさみ、永瀬正敏、髙橋海人に浮世絵指導の松原亜実氏『おーい、応為』へ「熱意の賜物」3

 映画『おーい、応為』(監督:大森立嗣/配給:東京テアトル・ヨアケ)公開記念舞台あいさつが11月15日に東京・テアトル新宿で開催され俳優・永瀬正敏、浮世絵指導と劇中画制作を担当した松原亜実氏、大森立嗣監督が登壇した。

 江戸時代が舞台。絵師・葛飾北斎(永瀬)と、彼の娘であり弟子でもあった葛飾応為(長澤まさみ)。「美人画では父を凌ぐ」と言われた才を持ち北斎の右腕として、そして数少ない女性の絵師として、人生を描きぬいた。茶も入れられず、針仕事もできないが、親ゆずりの画才と豪胆さで、男社会を駆け抜けていった先駆的な女性アーティスト・葛飾応為が、最後にたどり着いた幸せを描く。“キンプリ”の愛称で親しまれるアイドルグループ『King & Prince』髙橋海人が北斎の門下生であり応為とは気心知れた友人としてともに絵の腕を磨く絵師・渓斎英泉(善次郎)役で出演している。

 以下、公式レポート部分。

 冒頭、永瀬は「こないだ『今年最後です』ってここで皆さんに言ったばっかりなんですけど……嘘つきました(笑)。こういう機会をまたいただけるなんて。本当に嬉しいです」とあいさつ。松原は「長澤さん、永瀬さん、髙橋さんに浮世絵指導をさせていただきました。普段は日本画という自分の制作をしております松原と申します。本日は指導の裏側や稽古の様子、撮影の様子などお話させていただければと思いますので、よろしくお願いいたします」と続け、大森監督も「公開から時間が経っても、こうして満員の劇場で迎えられるのは本当にありがたいです」と笑顔でトークがスタートした。

長澤まさみ、永瀬正敏、髙橋海人に浮世絵指導の松原亜実氏『おーい、応為』へ「熱意の賜物」2

 トーク前半は、浮世絵指導としての関わり方から。今回はスケジュールの都合で登壇が叶わなかった向井大祐とともに浮世絵指導・劇中画制作を担当した松原は、向井が東京藝術大学大学院で葛飾北斎の師匠にあたる絵師の研究をしていたことからこうした仕事に関わるようになった経緯を紹介し、「まずは筆の持ち方から始めます。手を立てていただいて、手首ではなく肩から線を引けるように、肩の動きが筆先に伝わるフォームを体に覚えていただくんです。長い線を引いたり、くるくると丸を描いたり、リラックスしながら手の形に慣れてもらうところからスタートしました」と、基礎から丁寧に指導していったことを明かした。

 筆は最初からすんなり扱えるものなのかと問われると、永瀬は「いやあ、今思い出しましたね……」と苦笑い。「僕らはどうしても、こうやって(ペンのように)書くことに慣れてるんですよね。単純に真っ直ぐな線を引いたり、波線を引いたり、丸を描いたりするだけでもう難しくて。日本画の奥深さ、素晴らしさを初日にガツンと言われた感じがしました」と、戸惑いと発見を振り返った。松原は「すごく熱心でいらっしゃいました」と永瀬の生徒ぶりを評しつつ、「ただ、ご一緒されていた長澤さんが本当にお上手で。今までいろいろな方に指導させていただきましたが、その中でも本当にお上手な方で、結果的に永瀬さんに謎のプレッシャーがかかってしまって……」と笑顔で明かす。永瀬も「長澤さんがさらっと金魚の絵を描いてらしたんです。あまりにも上手でびっくりしましたね。これはやばいなと思いながら、ひたすら線を引いたり、鳥の羽みたいな線を一生懸命練習していました」と当時を振り返った。

 劇中画の制作について松原は、「絶対にこの絵を描くと決まっていたものもあれば、『雰囲気としてはこんな感じの絵が欲しい』という段階のものも多くて」としながら、「撮影が近づいてから、数日前に絵を納品するようなこともあり、その絵に合わせて撮影が始まってからもお稽古を続けていただきました」と裏側を紹介。京都の撮影時には向井と2人専用の浮世絵制作部屋を用意してもらい、「撮影期間中の約1か月半、朝から晩までこもって、どちらか一方、あるいは2人でひたすら絵を描いていました」と振り返った。富嶽百景の下絵については、当初10枚程度の予定だったが、「途中から『やっぱり多い方がいいよね、枚数増やせる?』とお声がけいただきまして(笑)。最終的には42枚まで増えました」と明かし、監督が「ご迷惑おかけしました。本当に」と頭を下げる一幕も。

 現場で初めて劇中画を見た心境を聞かれると、永瀬は「まず最初にお伝えしたのが欲しいでした」と即答。「本当にお上手なので、『これ、そのままいただけないですかね?』と。全部の絵に欲しい欲しいって言っていた気がします。自宅に飾っておきたいくらいのクオリティで。映画ならではの工夫をしながら描いてくださっていて、本当にすごいなと思ってました。ここに僕が“北斎”ってサインを入れれば……6億くらいかな? いやいや、そんなことはしないですけど(笑)」と冗談を交えつつ最大級の賛辞を贈った。

 また、絵を描く手元を別の絵師が担当する吹き替えが多いことに触れながら、本作では全て役者本人の手を映していることも話題に。松原は「クランクイン前からたくさん練習していただきましたし、クランクイン後も、ここまで撮影後のお稽古が多かったのは本作が初めてです」と語り、「日によっては長澤さん、永瀬さん、髙橋くんの3人が揃って、私たちが浮世絵部屋と呼んでいた制作部屋でお稽古する日もありました。皆さん少しでも自然に描きたいという思いがとても強くて、その熱意の賜物が全カット手元吹き替えなしという映像につながったのだと思います」と俳優陣の姿勢を称えた。永瀬も「もし観てくださった方が自然に描いているなって感じてくださったのであれば、それはもう先生方のご指導のおかげだと思います」と感謝を述べつつ、「僕、神の絵を描いたんです。それが一番褒めていただいたんですよ。三度目の正直で3回も描き直した、本当に素晴らしい一筆書きのシーンだったんですけど……カットでした(笑)」と明かし、会場の笑いを誘った。

 後半のQ&Aでは、「北斎はなぜあの姿勢で描いていたのか?」という質問に対し、永瀬が「勝手な想像なんですが、子どもの頃に貧しく紙や筆が簡単に手に入らなかったと思うんです。だから地面に指で描く癖が身体に残っていたんじゃないか、と想像しながら演じました」と語り、松原も「その解釈、とても理にかなっています」と頷く場面も。「1週前に初めて観て、今日2回目ですが“スルメみたいに味が出る映画だと思った”」という感想とともに、「北斎の最期のシーンは原作や史実に基づいているのか?」という質問が寄せられた。これに大森監督は「北斎が春の浅草寺で亡くなったという史実は残っていますが、絵を描きながら最期を迎える描写は、僕がイメージを膨らませて創作した部分です」と説明。「この映画はストーリーを追うだけでなく、余白の中から自分で何を見るかを選べる作品。観るたびに発見があるのは、その余白のおかげだと思います」と語り、スルメ映画という感想に笑顔を見せた。

 また永瀬の役作りについての質問も上がり、「『国宝』を観て来たら本作の永瀬さんは少し痩せて見えた」と問われると、永瀬は
「おっしゃる通りです。北斎の年齢ごとの変化を表現するために、毎日監督やメイクさんと相談して、髪の長さや体のラインを少しずつ調整していきました」と明かす。「メイクさんがホテルで試したものを翌朝『これ試してみたいんですが…』と持ってきてくださることもあって。みんなで少しずつ作り上げていく感覚があった」と撮影当時を振り返り、会場もうなずきながら聞き入っていた。

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 最後のあいさつでは、松原が「吹き替えなしで挑んだ皆さんの練習の成果が本当にスクリーンに出ていて、私にとっても思い入れの強い作品になりました。見返すたびに新しい発見がある映画だと思いますので、またぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです」と観客に感謝を伝え、大森監督も「1回観ただけでは見切れない部分も多い映画です。ストーリーを追うだけでなく、その場の空気や自分が何を見るかで感じ方が変わる作品ですので、よければ何度でも触れていただければ」と呼びかけた。最後に永瀬は「今日も本当にありがとうございました」と丁寧に頭を下げつつ、「今日ずっと取っておこうと思っていたものがあって……これ、北斎さんが描かれた靴なんです」と足元のスニーカーに触れ、「普段こういうスニーカーを履かないので記念に取っておこうかなとも思ったんですけど、北斎さんの絵を踏みつけるってどうなんだろうとも考えつつ、やっぱり北斎さんに足元から支えてもらおうと思って今日履いてきました」と笑顔でコメント。「このあとサイン会もありますので、もし写真撮りたい方はぜひ足元も撮ってください。本日は本当にありがとうございました」とユーモアを交えながら締めくくり、温かな空気の中でイベントは幕を閉じた。

 ※記事内写真は(C)2025「おーい、応為」製作委員会

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