狂言師・野村万作、野村萬斎、野村裕基の親子三代が7月24日に東京・早稲田大学内の大熊記念講堂でドキュメンタリー映画『六つの顔』(監督:犬童一心/配給:カルチュア・パブリッシャーズ)完成披露試写を犬童監督とともに開催し、司会は萬斎の長女でTBSのアナウンサー・野村彩也子が務めた。
650年の歴史を持つ狂言の第一人者でいまだ現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作の、ある特別な1日の公演に寄り添った作品。万作が磨き上げてきた珠玉の狂言「川上」と人生の軌跡に迫る──。ナレーションをオダギリジョー、監修を野村万作と野村萬斎が務めている。
会場となった早稲田大学は万作の母校。思い出がたくさん詰まっているそうで、「とにかく古臭かったのですが、綺麗になって……。いつの日か、自分がここで何かをやると感じていたんです」というだけに感慨深げ。
作品を作りたいという気持ちがあったという万作。「勧進帳とか、小津安二郎監督の素晴らしい映画を学生時代に見ていたので、そういうものを1度は狂言の演者でと思っていました」と暖めていたといい、それが叶ったという。
萬斎は万作へこうして作品として残ったことへ、「自分の芸を形にしたいという気持ちがあったのでは?」と振る。
すると、万作は「二十歳代のときに、那須与一の名作をやらされました、そういうことも自分の中にありがたいことにあります。そこで『川上』ですが、UCLAでシンポジウムをしたときに野外で『川上』をさせて頂いたときに、ものすごい拍手を頂きました。あるいはミラノで『川上』をしたときに、夫婦が舞台で手を取り合って引っ込んっでいくときに、『夫婦で手を取り合って帰っていった』というのを通訳の方から聴いて、嬉しいなと思ったんです。あのような狂言、そして、静かな狂言が好きなんです。もちろん、ゲラゲラ笑うのも悪くないですが、和というものがある柔らかい狂言、そういう泥棒を許す、泥棒を許して破る。桜の花を盗みにきた泥棒に桜の花をあげて、お酒をふるまって帰すみたいな。人と人との交流というというのが『川上』をご覧になっても、そのなかにあるということ。そのような狂言を少しでも色濃く演じていければというのが最近の私が思っていることです」と、とうとうと自身の“形”というものへの気持ちを語り続けた。
一方、裕基は本作を観て「芸を継承することはできても、記憶は継承することはできないんだなと感じています。万作先生はこう思ってらっしゃったんだということを感じました。未来に向けて万作先生がどういう道を歩んでいくのか……というか、これから先を見据えた映画だと感じました」と、感想を寄せていた。
ほかにも、万作として「大変嬉しいことがありました」というシーンがあるという。それが『川上』を演じる前の『釣狐』という映画が「この映画に取り込んで頂いているんです。私の50歳から60歳のときの舞台ですが、その姿が現実に残っていたのをNHKの方で探してくれて差し込んでくださった。それは僕の嬉しいことの1つであります」と、ポイントを。
萬斎としては万作は「父であることより師匠であり師弟でもあるんです。けれど、同じように考えてくということもあって、同業者であり共演者である、技芸を受け継ぐだけではなく精神を受け継ぐところがあります。新しい時代にアップデートされていくなかで、何を守り何を更新していくのか。そのためのチャレンジを惜しまないということを見せてくれた先達でもあると思います」という存在であることも話していた。
犬童監督としては、本作撮影の特徴として、監督として注文を入れたくなることがあっても、これまで『川上』を積み重ねた万作に対して何かをしてくださいという指示はできなかったということで光の加減などは見たが演出などはしていない作品と話す。そんな演出なしでも、「演出しなくて出てくる人たちがすごい演技をしていて、100%演出なしで、通してできるということがないですし、何度やっても同じものになるんです。完璧な演技を繰り返しやってくれるんです」と特徴を話していた。
映画『六つの顔』は8月22日よりシネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開!
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ