ヴォーカル担当のマオ、ギター担当のShinji、ベース担当の明希、ドラム担当のゆうやによるヴィジュアル系ロックバンド『シド』が11月29日に東京・昭和女子大学 人見記念講堂で全国ホールツアー<SID HALL TOUR 2024 ~Monochrome Circus~>ファイナル公演を開催し、ツアーを完走した。
以下、公式レポート部分。
白と黒、二つの世界をステージセット、衣装も含めて表現したコンセプトツアーで、初期曲から近年の楽曲まで織り交ぜた多彩なセットリストを披露。作り込んだ世界観で陶酔させるパートと、ライブハウスにいるかのような熱狂に溺れるパートと、両極のシドの魅力を堪能できるライブだった。
開演前、白、黒衣装の2人のピエロが客席前方に登場、パントマイムをする場面から舞台演出はスタートしていた。幕が開き、サーカスモチーフの豪華なセットが出現し、SEに乗せてゆうや(Dr)、続いて明希(B)、Shinji(G)、最後にマオ(Vo)が登場、全員白いエレガントな衣装をまとっている。SEが止まりShinjiのアルペジオからゆうやのカウントが鳴り「NO LDK」がスタート、歌唱や演奏はもちろん、それぞれに華やかなポージングでも魅せる。背後の“Monochrome Circus”という電飾が灯り、「Room」「ドラマ」と間髪入れず放っていき、観客を非日常の世界へと引き込んでいく。
「シドです! “Monochrome Circus”へようこそ! 本日はツアーファイナルということで。短いツアーだったからね、ファイナル感は正直……あるよ(笑)? 今日は、普通のツアーの10本分ぐらいやらなきゃな、と思ってます」とマオが覚悟を語ると、大きな拍手が起きた。
「白の世界ということで、メンバーのみんなも白の衣装を着て。ピュアな4人にぴったりの、もしかしたら別の人格も観られるかもしれないし」と語った後、「白いブラウス 可愛い人」とタイトルコール。軽やかなボサノヴァが小気味よく、マオのファルセットが美しい。歌い終えたマオの声から引き継ぐようなShinjiのギタープレイにも聴き入った。「淡い足跡」では、ギターの深いリバーブと、水の中にいるかのような照明演出が幻想的。明希のベースは艶やかで、ゆうやのドラミングはアンサンブルをしっかりと支えている。ロングトーンを響かせ歌い終えたマオが大きく両手を広げると、会場からは拍手が送られた。Shinjiがスポットライトを浴びてアコースティックギターを爪弾き、「小さな幸せ」へ。4人の奏でるアンサンブルに陶酔しながら、どこか遠い場所へと心を誘われていく。
ゆうやが、「東京の皆さん、こんばんは!」と挨拶、「皆さんとつくり上げてきた“Monochrome Circus”が今日で終わります。しっかりとこの世界観を届けていく、気を抜かずに……いや、ちょっとだけ気を抜いて(笑)」と、チャーミングな人柄が伝わる語り口で笑わせた。明希は「今日は千秋楽でございます。19年ぶりの昭和女子大学、人見記念講堂。昭和女子大学……いい響きですね」と大学名を意味あり気に連呼。更に艶っぽいジョークでファンをざわつかせたのも、色男ならでは。
Shinjiは、19年前の人見記念講堂公演は “角刈り限定ライヴ (嘘)”というタイトルだったことをWikipediaで調べたそうで、「昨日散髪行って来たんですけど、ギリギリまで迷いましたよ。君たちを驚かせてやるのが使命」と角刈り未遂プランを告白、「心は角刈りで今日は行きます」と決意表明。それぞれのキャラクターが伝わってくるMCだった。マオが「まだまだ行けんだろ?」と煽り、「冬が来ちゃったけど、あと半分だけ回ってここを夏にしましょう」との振りから「夏恋」へ。ステージセットはカラフルな照明で彩られ、ファンは手でハートを作って捧げた。
スピーカー前スレスレの場所を通ってマオは花道へ行きしゃがみ込んで歌唱、やがてShinjiも反対側の花道へ。「『Dear Tokyo』!」(マオ)というタイトルコールが響くと、ファンは「オイ! オイ!」という掛け声を叫びながら拳を突き上げ、髪を振り乱してヘッドバンギング。Shinjiはダイナミックにターンを繰り返し、マオはジャケットを脱ぎノースリーブになる。メンバーは熱くコーラスし、ファンも熱唱。最後のサビで昂りを見せたゆうやのドラミングは圧巻。あまりの盛り上がりに、二階席では揺れを感じたほどである。
「もっと行ってみようか? 行けるかー?」とマオは煽り、「one way」のタイトルを一語ずつ区切って力強くコールすると、「ウワ~!」というどよめきが起き、ファンの「オイ! オイ!」の掛け声は凶暴さを増していく。熱い掻き回しの後、マイクを握りしめてフェイクを歌い、両手を耳に当ててファンの声を求めたマオは、ステージを一人去っていった。3人は向き合って円を成しインストセッションを繰り広げた後、Shinji、ゆうや、明希という順で入れ替わり立ち代わりソロを披露。サイケデリックだったりジャジーだったりパンキッシュだったり、様々な音楽要素を咀嚼した音、フレージングは各自多彩だった。一人一人にこれほどの華があるメンバーが揃った、シドというバンドの魅力を痛感する場面だった。
幕が閉まり、再びピエロが、今度はステージ上に小走りで登場。白と黒の二人が争い、帽子を奪い取られたり取り返したり、といったシーンが無言劇で繰り広げられた。解説はなく純粋にエンターテインメントとして楽しめたが、善と悪の対立をメタファーとしてピエロに託しつつ、このライブ全体の世界観をも投影し、ファンに解釈を委ねた部分もあるのかもしれない。
「証言」のイントロが鳴り、幕が開くと前半とは色使いが一部変わったステージセットに、黒衣装に身を包んだメンバーが姿を現した。4人全員エモーショナルなパフォーマンスは圧巻。続く「サーカス」は一変してポップに、クラップをマオが自ら誘いファンとの一体感を生み出した。明希とマオがセンターで接近し、Shinjiもやってきて3人が一列に。最後はマオがShinjiと明希のお尻にタッチして去っていく場面が微笑ましかった。ゆうやがスティックを打ち鳴らして煽りを先導し、ドラマティックさで圧倒したのは「軽蔑」。マオは妖艶な身のこなしで魅せたかと思えば、人が変わったかのように次の瞬間には咆哮。明希も激しく髪を振り乱してプレイに没入。怒涛の掻き回しで曲は締め括られた。
マオが一瞬ステージから姿を消している間、明希が「元気か? 楽しんでる?」とファンに問い掛けトークを始めた。「今度は黒い衣装でカッコいいでしょ? ここからは、優しかったシドが激しく、ファイナルなんで一番激しく! よろしいですか? 付いてこられますか? この会場大好きで、19年ぶり? 20年ぶり? 燃えてますよ」と語っていく。Shinjiがそこから話を膨らませようとしていたところ、マオが戻ってきて「ごめん、もう大丈夫だよ」とShinjiの肩を叩いた。マオが改めて「黒です」とファンにご挨拶、背後では同調するようにゆうやが手を振っていた。「泣き出した女と虚無感」では、息のピッタリと合った3人の演奏に陶酔。マオがマイクを遠ざけて歌い、瑞々しい生声が聴こえてきた瞬間にも、ライブ空間の醍醐味を感じる。明希が前へ出て一人残り、赤い照明の下、ベースソロを弾き終えた瞬間は大拍手が起きた。今年リリースした「面影」は、和の情緒を湛えたメロディーが美しく、マオの歌はもちろん、全員の鳴らす音が“歌っている”ように感じられた。
マオの「“新しい曲もいい”っていうバンド、いいよね。前の曲をやれば盛り上がるんだけど、前の曲だけやってるのは嫌で」という発言に対し、場内では拍手が起きた。「そろそろ優しいお兄さんタイムはお終い(笑)」という言葉に相槌を打つように、ゆうやがドラムを鳴らす。「お前らがトラウマになって帰るぐらいの、眠る前に必ず思い出すぐらいの」とマオは物騒な予告をすると、「基本的に俺、ドSだから。お前らのこと、攻めて攻めて盛り上がって行くぞ!」と人格が豹変したかのような口調で「プロポーズ」を投下。以後、格式高い人見記念講堂に、ライブハウスのような狂暴なカオスが発生することになる。
狂騒的なアップビートにファンが髪を振り乱した「敬礼ボウイ」、「赤紙シャッフォー」ではなんとマオがステージから降り、ファンの至近距離で歌いながら練り歩き獣のように咆哮した。「もっと行けるよな? お前ら。『park』!」(マオ)とコールすると、明希とShinjiは前へ出て頭を激しく振り乱しながらプレイ。「叫べるか? ラストソーング! 行くぞー! 吉開~」とマオが叫んで、本編ラストは「吉開学17歳(無職) 」。「ギャー!」という歓喜の絶叫が響き渡り、ヘッドバンギングの嵐が起きる。指でこめかみを叩き続けシャウトするマオ。明希はShinjiと立ち位置を入れ替わり、上手花道へ向かった後、客席に降りて練り歩いた。マオは「もっとちょうだい! 全然足りねーんだよ!」としゃがみ込んで絶叫。「いいじゃん、お前ら」という言葉を残してステージを後にすると、明希がベースをセンターのお立ち台に立て掛け、残響させて去っていった。
アンコールの声に応え、最初にゆうやが登場すると、「ハッピーバースデー」が流れてきて、12月9日に誕生日を迎えるゆうやは「俺?」と自らを指差した。マオが「ハッピーバースデー・ゆうや」と歌いながらケーキが乗ったカートを押して出てきて、Shinjiと明希は並んでその様子を見守っていた。ゆうやが「びっくりした~」とリアクションし、マオに「今年の抱負は?」と尋ねられると、「ヴィジュアル系なので年齢非公開でやらせていただきますけど、40ウン歳になりました。でも少年なんですよ。大人らしさを出していけばもうちょいファンが増えるんじゃないか?と(笑)。今日ちょっとでも“いいな!”と思ったら、ゆうやのことを推してください」とアピール。マオは「いいね、こうやってメンバー同士でお祝いできるバンド」と感慨深そうに語った。
おめでたいムードの中、更にうれしい発表があった。2025年4月10日(木)、シドの日にKT Zepp Yokohamaで『BEST OF SID』というコンセプトでライブを開催、ID-S BASIC会員の優先予約受付が21時からスタートすると告げられた途端、観客がそわそわとし始めたことからも、期待感を体感する。マオは「“Monochrome Circus”が終わって得たものを構築できたらな、と思っています。『BEST OF SID』、今の、2025年のシドのベストを見せられたら」と意気込みを語った。「次に会える約束もできたので、寂しさも紛れたんじゃないかな? 会えない間もファンのみんなとシドは繋がっていたい」とファンへの想いを述べ、最後の1曲として、客席も明るく照らされた眩い光に包まれて「live」を披露した。♪ラララをファンが歌い、メンバーも熱くコーラス。名残を惜しむような長い掻き回しの末に音を止めると、大きな拍手の中、マオはギュッと自らを抱き締め笑顔を見せた。
4人は、四方八方のファンに手を振ったり記念撮影をしたり、終わりの瞬間を先延ばしにするかのようにステージに留まっていた。最後に、前へ出て手を繋いだ4人は「“Monochrome Circus”、どうもありがとう!」(マオ)の発声で揃ってお辞儀。メンバーは互いにハイタッチし合った。「楽しかったかい? 最高だったかい? 2025年BEST OF SID、横浜で会いましょう! また会おうぜ、愛してます! 愛してます! 愛してるよ!」(明希)、「ヘイ東京! ありがとう、ファイナル。完走したね! クサい感じになっちゃいますけど、シドのギタリストでつくづく、しみじみ良かったなと思いました。何よりも、君たちがファンで良かった、Shinjiでした」(Shinji)、「最高のファイナルでしたね。短いツアーでしたけど、すごく内容が濃くて。まだまだ21年目でやってないこといっぱいあるし、来年のシドの日にライブが決まっているということで、また皆さんと約束できましたね。いろいろやっていきます、シドの一員としてみんなと会えることを楽しみにしています」(ゆうや)。
マオは自撮り棒を手に撮影しながら、「どうだった、楽しかった? 最高だったね。最高だったな、俺も。ここで19年前にもやってるんだよね。ライブをやりながら、あの頃の俺たちのことを思い出して」と語り始めた。初のホールライブが人見記念講堂だったことを振り返り、「事務所から『次、大きいところでやってみないか?』と言ってもらって。2000人とか埋められるバンドになる、ここがスタートライン。ホールという初めての挑戦……挑んでみないか?と言われて、すごくうれしかったのを覚えてるんだよね。20年近く経ってもその会場が埋まって、新しい曲もやれるバンドに成長できて。楽しいって気持ちと感動が入り混じった最高のライブでした」と感慨深そうにファンに語り掛けた。「当時ピンクのパンツを履いて、白いハットの、ガムシャラに頑張っていた俺が報われた、というか。そんな気持ちになりました、ありがとう!」と感謝した。
マオコールの嵐の中、SEが一瞬止み、「愛してます!」とオフマイクで叫んだ声が会場に響いた。マオがステージを去った後、更なるアンコールを求める声が湧くほど、会場の熱気は冷めやらなかった。コロナ禍、そしてマオの喉の不調によるライブ活動休止を乗り越えて、2023年1月に再開したシドのライブ活動。このツアーファイナルで観た4人の姿は、シンプルに、生き生きとして楽しそうだったことが印象深い。バンドとしての試練を乗り越えて獲得した強さを感じさせ、ファンとの一体感にも溢れていた特別な一夜。きたる2025年4月10日、シドは“BEST”をどう解釈し、どのようなライブを構築するのか? 今から楽しみである。
文●大前 多恵
写真●加藤 千絵
SID HALL TOUR 2024 ~Monochrome Circus~
11月29日(金)@昭和女子大学 人見記念講堂
SET LIST
01.NO LDK
02.Room
03.ドラマ
04.白いブラウス 可愛い人
05.淡い足跡
06.小さな幸せ
07.夏恋
08.Dear Tokyo
09.one way
10.証言
11.サーカス
12.軽蔑
13.泣き出した女と虚無感
14.面影
15.プロポーズ
16.敬礼ボウイ
17.赤紙シャッフォー
18.park
19.吉開学17歳(無職)
En01. live