俳優・成宮寛貴が2026年1月8日より上演予定で演出家・宮本亞門氏が手掛ける舞台『サド侯爵夫人』を主演することが9月26日に発表となった。
作家・三島由紀夫の人間の心の奥底に潜む欲望や葛藤を、美しくも残酷な言葉で浮かび上がらせる作品。サド侯爵自身は姿を見せず、その周りを取り巻く女性たちの会話劇で進む物語となっている。
18世紀フランスを舞台に、悪徳の限りを尽くしたサド侯爵を待ち続ける、貞淑な妻・ルネ/サド侯爵夫人役を成宮が演じる。成宮自身は12年ぶりの舞台となる作品。なお、成宮と演出の宮本氏といえば、宮本氏が演出を手掛けた『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』で初舞台を踏み芸能界デビューを果たしたという縁がある。本作では25年ぶりの再会を果たすことになる。
さらにほかのキャストも発表。サン・フォン伯爵夫人役に東出昌大、ルネの妹・アンヌ役に三浦涼介、ルネの友人・シミアーヌ男爵夫人役に大鶴佐助、女中・シャルロット役に首藤康之、そしてルネの母・モントルイユ役を加藤雅也が演じる。なお、今回の舞台はオールメール(全員男性)キャストとなっていることが特徴となっている。
今回の発表に宮本氏を始めキャストからコメントが寄せられた。
●演出・宮本亞門
念願であった日本演劇界の頂点とも言える、三島由紀夫氏の『サド侯爵夫人』を新たに創り出す喜びに胸が震えています。
成宮君をはじめとする個性あふれる俳優たちと共に、危殆と破壊の縁に立ち上がる高揚を、かつてない舞台として結晶させお見せします。
来年一月――破壊からこそ生まれる美の昂奮を、どうぞご期待ください。
●成宮寛貴
再び舞台という“生”の場所に立てることに、静かな高揚を感じています。
『サド侯爵夫人』という極限まで研ぎ澄まされた世界の中で、人間の愛と狂気、そして内面に潜む声を辿っていく時間になると思います。
今回、12年ぶりに舞台に挑戦します。
三島由紀夫の戯曲に向き合うことは、俳優にとって大きな試練であり喜びでもあります。
鋭く精緻な言葉に呑み込まれるのではなく、自分の身体と声を通してどう響かせられるか──その覚悟をもって臨みたいと思います。
そして演出を務めてくださるのは、僕が俳優デビューした舞台でもご一緒した宮本亞門さん。
あのときから年月を重ね、25年ぶりに再びこのタイミングでタッグを組めることに、運命的な巡り合わせを感じています。
俳優という仕事に再び身を委ねるなかで、今の自分だからこそ触れられる感情や言葉があると信じています。
劇場という濃密な空間で、観客の皆さんと同じ時間を生きられることを心から楽しみにしています。
●東出昌大
世界の演劇界に燦然と輝く傑作『サド侯爵夫人』に出演出来ますことは、私の俳優人生に於いての誉れです。
また『豊饒の海』の舞台を共に作り上げた盟友、首藤さん、佐助と再びご一緒出来る喜び。
そして、初めてお目見えする宮本亞門さん、加藤さん、成宮さん、三浦さんとの邂逅。全てが楽しみで仕方ありません。
十代後半より三島由紀夫作品を愛読して参りました。
その後役者になり、舞台『豊饒の海』や映画『三島由紀夫 VS 東大全共闘』などの作品で“三島”に関われる機会に恵まれてきましたが、この令和の世に『サド侯爵夫人』を男性キャストで公演すると聞いた際は、魂の微振動を感知したことを覚えております。
絢爛豪華な美文に負けぬ熱演を致します。
●三浦涼介
「サド侯爵夫人」ルネの妹。アンヌ役を演じます。三浦涼介です。
三島由紀夫生誕から100年。そのような新たな歴史のスタートにこのような出演のお話を頂き心より感謝します。
宮本亞門さんとの出会いはずっと願って居た事であり、今回初めてお会い出来る事…僕自身とても嬉しく思っています。
サド侯爵夫人は三島さんの作品の中でも過去に数多くたくさんの方々がこの戯曲の夢を叶えてきた事だと思います。
読むごとに新たな発見を与えてくれる三島由紀夫作品ですが、三島さんの文学をどう紡いでゆき自分の身体や咽喉を使いアンヌの言葉を伝えていけるかワクワクしています。
出演者男性役者での上演。男性が女性を演じる事への美学やエロスも非常に興味深く、この時代だからこそ一歩も二歩も”前のめり”にこの作品の持つ魅力が溢れ出てくるんでは無いでしょうか。そして舞台という魅力も。
僕自身、近年舞台に多く立たせて頂いて居ますが、やはり劇場で生でその全てを目撃して頂きたいと心から思います。
そこには何のフィルターも無く、その場でお客様と共に作品を作り上げる。お客様が着席されて初めて完成する瞬間があります。そう考えると毎日が初日になるわけですが、ドキドキしますよね。そのドキドキを共にその日を心待ちにして頂けます様に。精一杯に心を込めて演じて参ります。
●大鶴佐助
サド侯爵については初め性的倒錯者としての印象が強かったのですが、宗教や道徳などの固定概念の全面的否定や徹底的な自然主義など、本人の絶対的な美学の上での行いだった事を知り、自分の中で見方が少し変わりました。
「サド侯爵夫人」は全編女性の会話劇ですが、女性達の中に常にサド公爵が存在しているからかなのか、三島由紀夫の美学とサド公爵の美学が似ているからなのか、男性が演じると考えても台詞に違和感を感じませんでした。
三島由紀夫作品は「豊饒の海」以来ですが、戯曲を演じるのは初めてですので、三島の書いた台詞をどう立ち上げていくか今から楽しみです。
●首藤康之
今回、宮本亞門さん演出舞台『サド侯爵夫人』に関わる事ができることを嬉しく思います!
私のキャリアはフランス人振付家モーリス・ベジャールさんが三島由紀夫さんをモチーフに創作した作品『M』からはじまりました。
未だミステリアスかつ不可解な事が多いこの作家の真実や愛に少しでも近づけることを願いながら、素晴らしい共演者の方々と丁寧に稽古をしてまいりたいと思っております。
●加藤雅也
私が45歳で初めて舞台に挑戦してから、早いもので17年が経ちました。
これまで携わってきたのは、どちらかといえばエンターテインメント性の強い作品が多かったのですが、心のどこかで「いつかは三島作品やシェイクスピア作品のような芸術性の高い舞台にも挑戦してみたい」と願っておりました。
もしかしたらそのような機会は自分には訪れないのかもしれない……と半ば諦めかけていたところに、今回のお話をいただきました。
驚きと喜び、そして「果たして自分ができるのか」という不安がよぎりましたが、思わず「やります!」と即答してしまいました(笑)。
台本を手にした瞬間、セリフの多さに「これは大変なことになったぞ(笑)」と覚悟を決めると同時に笑みがこぼれ、まだ稽古もしていないのに早くも“セリフが出てこない夢”を見る始末。
夢に見るぐらい不安を抱いている自分に少し可笑しさを感じました。
もう後戻りはできません。全力でモントルイユ夫人と向き合い、皆さまに楽しんでいただける舞台をお届けできるよう励んでまいります。
全身全霊でモントルイユ夫人を演じきりたいと思っております。
温かく見守っていただけましたら幸いです。
以上
舞台『サド侯爵夫人』東京公演は2026年1月8日から2月1日まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、大阪公演は2026年2月5日から2月8日まで森ノ宮ピロティホールにて、愛知公演は2026年2月13日と2月14日にとよはし芸術劇場にて、福岡公演は2026年2月17日と2月18日に福岡市民ホール中ホールにて上演予定。
【ストーリー】
◯第1幕 1772年秋。パリのモントルイユ夫人邸のサロン。
サド侯爵の妻ルネの母親であるモントルイユ夫人は、娘婿であるアルフォンス(サド) モントルイユ夫人は、娘婿アルフォンス(サド侯爵)の無罪を勝ち取るため、二人の女性を邸宅に招く。
一人は敬虔なクリスチャンのシミアーヌ男爵夫人、もう一人は性的に奔放なサン・フォン伯爵夫人。
アルフォンスは数々の乱行と娼婦虐待により当局に追われており、モントルイユ夫人は彼女たちの力を借りて裏工作をしようとする。そこにルネ(サド侯爵夫人)が現れる。
モントルイユ夫人は娘に離婚を勧めるが、ルネはそれを拒否し、寝室へ退室してしまう。
その後、ルネの妹アンヌがイタリア旅行から帰宅。
アンヌは、イタリアでアルフォンスと性的関係を持ったこと、そして姉ルネもその事実を知っていることをモントルイユ夫人に告白する。
この告白に激怒したモントルイユ夫人は、態度を豹変。
シミアーヌとサン・フォンに依頼した裏工作を取り消す手紙を家政婦シャルロットに託し、自らは国王にアルフォンスの居場所を密告し、逮捕と投獄を嘆願する手紙を届けに行くことを決意する。
◯第2幕 6年後の1778年9月、パリのモントルイユ夫人邸のサロン。
ルネは、妹アンヌから夫アルフォンス(サド侯爵)の犯罪が罰金刑で済むという再審結果を聞き、歓喜する。実はルネは5年前、アルフォンスの脱獄を成功させ、有罪判決の破棄に奔走していた。
しかし、モントルイユ夫人の策略により、アルフォンスは再逮捕されていた。
ところが、喜びもつかの間、再審で釈放が決まった直後、アルフォンスは王家の警官に捕らえられ、より厳重な牢獄へ送られてしまう。
サン・フォン伯爵夫人から、これが全てモントルイユ夫人の策略だと知らされたルネ夫人は、母に激しく詰め寄る。二人の間では激しい言葉の応酬が繰り広げられる。
モントルイユ夫人は、夫を牢獄に入れておけばルネ夫人は嫉妬せずに済むはずなのに、なぜ自由を願うのかと問う。ルネは「貞淑」という母の教えに従っていると答えるが、モントルイユ夫人は納得しない。
モントルイユ夫人は密偵からの報告で、アルフォンスが脱獄していた時、ルネが彼と不貞行為に及んでいたことを知っていたのだ。それをルネに告げるが、彼女は動じない。
ルネは母モントルイユ夫人に対して「あなた方夫婦は偽善としきたりの愛で道徳や正常さと共に生きている」と批判し、「アルフォンスは私だったのです」と衝撃的な告白をする。
◯第3幕 フランス革命勃発から9ヶ月後のパリ、1790年4月。モントルイユ夫人邸のサロン。
革命の混乱の中、貴族たちは身の危険を感じていた。
モントルイユ夫人は、牢獄に繋がれたサド侯爵(アルフォンス)を身内に持つことで、免罪符となり安全が確保できると計算していた。
かつてサド侯爵を激しく嫌悪していた彼女だが、革命という時代の変化の中で、彼の出所を待ち望むようになっていた。
一方、ルネ夫人は、夫の釈放が近づく中、修道院に入ることを決意する。
彼女は、夫が獄中で書いた小説『ジュスティーヌ』を読み、自らの認識が誤っていたことに気づく。
『ジュスティーヌ』は、悪徳を貫く姉が幸福を掴み、美徳を守る妹が不幸に見舞われる物語である。
ルネは、かつて夫を「悪の象徴」と捉えていたが、実際には自らが「美徳の象徴」であるジュスティーヌであったと悟る。
サド侯爵は、もはや悪行を超え、悪の掟そのものを追求する存在となっていた。
彼はあらゆる悪をかき集め、天国への裏階段を自分の欲望のままに築き、「永遠」に手を伸ばそうとしている。ルネは、自分たちが生きる世界が、サド侯爵が創造した世界であることに気づき、彼が神の領域にまで達したと悟る。
モントルイユ夫人が神の裁きを恐れる中、ルネ夫人は、神がサド侯爵にその役割を与えたのかもしれないと考え、修道院で神意を問う決意を固める。
そして、物乞いのように変わり果てたサド侯爵が訪ねてきた時、ルネ夫人は会うことを拒否し、「侯爵夫人とは二度と会うことはないだろう」と告げるのだった。