アーティスト・落合陽一氏が10月12日に大阪・関西万博内のテーマウィークで『大阪・関西万博「テーマウィーク」「SDGs+Beyond いのち輝く未来社会」ウィーク ~アジェンダ 2025 協会主催プログラム~』に事業プロデューサーの宮田裕章氏、石黒浩氏、中島さち子氏、福岡伸一氏、河森正治氏、小山薫堂氏、河瀨直美氏とともに登壇した。
『8人のテーマ事業プロデューサーと考える“いのち”と SDGs+Beyond』と題して開催。登壇した8人は「いのち」に関する各シグニチャーパビリオンを担当し、その振り返りと、SDGs+Beyondへの展望とビジョンを披露することとなった。
落合氏はシグネチャーパビリオン『null²』(ヌルヌル)を担当。「ポイントはどこかというと、話題という観点ではシグネチャーパビリオンは大屋根リングに負けたという結論です。誰も戦えてない。やっぱりリングが強いですよ」と、データを見せながら“敗北”を宣言したが、宮田氏が冷静に「争いじゃないんで!」とツッコむことも。あまりの率直さにギャラリーからは笑いが起こっていたが、そのリングに一矢報いたのが『未来を感じた建築ランキング』というものだそうで、そこは「リングに勝った、やった!」と、喜びを口にする。
そうしたリングを強く意識した理由として「パビリオンより会場計画の方が強くなったというのはシグネチャーパビリオンの反省点の1つだなって思います」という気持ちからだそうだ。
そんななかでも、『ヌルヌル』は「“屈強な万博市民”に支えられている」という落合氏。その『屈強な万博市民』について落合氏は「(携帯)椅子を持ってどこにでも現れる最強の市民がいるんです。彼らによって、万博はありがたいことに成り立ったんだなって」と自身の実感を語る。さらに「私が出ていって、花火をしたり一昨日もカナダ館に(DJイベントで)行ったり」ということも盛り上げに華を添えたそうだ。
続けて、『SDGs+Beyond』というトークテーマとなった際には、『ヌルヌル』が大阪・関西万博後を“お引越し”しのためにクラウドファンディングを実施したところ第1目標の1億円を突破し、ただいま第2目標の2億円に向けているという現状に触れつつ、「クラウドファンディングに参加してくださった方には『ヌルヌル』の幕の欠片をプレゼントしようと思っていたんです。そうしたら『新品より中古の方がいいです!』、『傷がついたなるべく生のものがいいです』という声を多く頂いたんです。これって結構おもしろい話で、廃材をぶっ壊して皿を作ったりしてもあまりありがたがられないじゃないですか。でも、茶室のススとかは味わいがあるんです。そういう“味わいがある”“味わいがない”の味の境界線はどこにあるんだろうと私のなかで思っていて。SDGsのなかで興ざめすることがあるのがゴミを持ってきてゴミを作ってどうするんだということがあるんです。毒舌ですみません(苦笑)。でも、廃材と言われているものも、錆びてきた大正時代のアイロンとかたまらない味わいがあったり、工業製品のパーツでもそうで」と、“味わい”が気になると展開。
「そういう気持ちで万博を回ると、ミャンマーの仏具は原価はいくらで持ってきて、いくらで売ってるんだとか。でも、(万博で展示されていたということが)価値があるんです。その価値を通じて持って帰ったら、それがより高くなるというのが、いろんなところで起こっていたんじゃって思うんです」という落合氏に宮田氏は「『ヌルヌル』のちょっと傷ついたパーツも含めて可視化され価値を生むんだと。今回の万博のもう1つの課題である終わった後ぶっ壊れちゃうというところに対する問いにもなるんですよね」と議論を深めていた。
トークの締めくくりとして落合氏は、「70年万博のことを思い返すと、どうしてあれがいろんな人が覚えてたのかなと思うと、たとえば『太陽の塔』を作った岡本太郎は普通にその後も作家としていろんなものを作ってたんですよね。丹下健三もそうだし。要はあそこにあったモチーフやクリエーションで人が生きてクリエーションしてくってことは作ってくってことで、そういったことを続けていくと、クリエーションの中で、『ああ、あの人の作品またあった』とか、『あの人が作ったクリエーションここにあった』『ああ、あの時、万博で私あそこにいた』っていうことをずっと続いていくと思うんです。なんかそういったようなクリエーションが常に続いていくことで、あらためてたぶん20年後僕のなんか作品作ってる時に、『あの時、私、万博行きました』『あの時たしか「ヌルヌル」からの光線でめっちゃ肌焼けましたみたいなことを思い出してくれれば。それはレガシーとして、1人の作家として、1人のアーティストとしていいなと思っています」と、気持ちを伝えていた。
また、同館といえば、明日10月13日は「ナオライモードーさようならヌルの森」を開催予定で、落合氏は「(『ヌルヌル』の)最後はみんなで『さようなら』を言おうと思っています」と話していた。
ほかにも小山氏のトークパートの際に、2020年8月10日に8人で撮影した写真も公開。落合氏は、この日から髪を切っていないそうで、それをさりげなくアピールする一幕もあった。
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ