松本白鸚「ラ・マンチャの男」は俳優としての「生き方と一緒になってしまった」……弟・中村吉右衛門さんへ「レクイエム」や大ベテラン記者と笑顔のやりとりなど想い溢れる会見

松本白鸚「ラ・マンチャの男」は俳優としての「生き方と一緒になってしまった」……弟・中村吉右衛門さんへ「レクイエム」や大ベテラン記者と笑顔のやりとりなど想い溢れる会見4

 俳優・松本白鸚(79)、松たか子(44)の父娘が16日、都内ホテルでミュージカル『ラ・マンチャの男』製作発表記念会見を東宝株式会社常務執行役員の池田篤郎氏同席のもと開催した。

 セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』をもとにしたミュージカル作品で、1969年に当時、六代目・市川染五郎だった白鸚により日本初演。以降も主演し続け、1307回の上演数を誇る伝統のミュージカルとして親しまれている。今回の2022年2月の公演をもって白鸚による『ラ・マンチャの男』は、ファイナル公演を迎えることとなる。白鸚演出のもと作者セルバンテスが牢獄に入れられ、その牢獄で劇中劇として田舎の騎士アロンソ・キハーナと、キハーナが作り出した人物ドン・キホーテを演じるという形で話が展開していく。キホーテが“憧れの麗しき姫ドルネシア”と慕う、アルドンザ役を松が演じる。なお、松がアルドンザ役を演じるのは2012年8月の公演以来になる。

 白鸚は、26歳のときに初演から演じ続け、「もう50年以上になります。本当に感無量でございます」と、しみじみと語り50年以上上演し続けられたことへスタッフ・関係者へ厚い感謝の言葉を述べるとともに「家族・友人のおかげだと思っております。自分は人間として、俳優として幸せ者でございます。2022年2月、とにかく、初日からみなさん方にご迷惑をおかけしないよう、無事千秋楽を迎えたいと思っております」と、噛みしめるように語る。

 50年以上演じ続け、「『ラ・マンチャの男』という作品のテーマごと、俳優・白鸚という者の生き方と一緒になってしまったんです」という白鸚。そこから作品へ、「いろいろ考えたんですけど、夢が叶うということは、想いが叶った人が夢が叶うというお芝居が多いと思うんです。そんななか『ラ・マンチャの男』は牢獄の中での劇中劇で、囚人たちは夢が叶わない、負けると分かっている。でも、夢をあるべき姿のために戦う心を失わない。それを喚起させてくれるのが牢獄に放り込まれたセルバンテスだと思っております。あるべき姿のために戦う心を失わないという気持ちで演じてまいりました。負けると分かっている戦いでも男はときに戦わなければならないということを自らのテーマにしています。自分の生き方のテーマも同じようになっております」と、気持ちを語った。

 一方、松は幼少の頃から本舞台にかかわっていたが、「小さいころはとにかく怖かったんです。自分のいままで触れてきた舞台から比べると、とにかく舞台が暗くて。たくさんのヒゲもじゃの人たちがいて楽屋も怖くて。楽屋の角を曲がった先にもいるのではないかと思って怖くて。でも、そのヒゲもじゃの方々が楽屋だと明るく話しかけてくれて、それがまた怖くて」と思い出を語っていたが、白鸚は「たか子が『怖い』『暗い』と申しましたが、それが人生だと思います。われわれはそういう方々のお客さまに夢を。悲しみを希望に、苦しみを勇気に変えるのが仕事だと思っています。『ラ・マンチャの男』を通して、あるべき姿のために戦うという心を、身体は動かなくなってきましたけれど、メッセージだけでも伝えたいと思います」と、想いを伝えた。

 演じ続けたなかで、思い出深い出来事について質問が挙がると「いっぱいございます」と、目を細めつつ、「父(1982年1月に亡くなった初代・松本白鸚)へのレクイエムのために歌っておりました。あるとき、暗い客席のなかから、ドン・キホーテ/アロンソ・キハーナが死んでいくシーンになったときに、声が上がったんです。スペイン語で、そのときはその声が何か分からなかったのですが、後で『死なないで』という意味の言葉だったんです。日本語じゃなかったから分からなかったですが、それが客席から聴こえたときはドキッとしました」と、亡き父に想いを重ねたエピソードを披露。

 さらに、「レクイエムを歌う者が今回1人増えてしまいましたね。残念ながら……」と、先月28日に亡くなった弟の中村吉右衛門(享年77)さんのことに触れ、「もう、別れというのは、いつでも悲しいものです……。たった1人の弟でしたから。でも、いつまでも悲しみに浸っていてはいけないと思います。それを乗り越えて、自分でこの作品のおけいこから、2022年2月の本公演をそれをみなさまへの見果てぬ夢を歌いたいと思います」と、偲び、松も「叔父の舞台をもう見ることができないのは心から残念だと思っています。舞台中に叔父のことを聞き、そのとき幕が開いたときに、開けて“やったぞ!”という気持ちになって。私達はやっぱり舞台に立ち続けることしか感謝やお返しができないと思いながらやっています。心からお悔やみ申し上げたいと思います」と、悼んだ。

 会見の後半には本公演で「ピリオドを打とうと思ったのかを教えてください」と、率直な質問も飛んだ。以前の公演で「最後だと思っていた」という白鸚は、「(新型コロナウイルス禍で)混乱した状態のなか東宝さんが、維持してきてくださって、そして来年の2月の公演のお話を頂きましてビックリしました。これを実現できるということが、自分はともかくとして、実現するという東宝さんのお力と、白鸚を歌舞伎座から貸し出してくれる松竹さんのみなさんの演劇人としての良心というもので、この『ラ・マンチャの男』は成立するのではないか。白鸚自身としてはこの作品は素晴らしいと思っておりますが、いち俳優でございます。東宝さんがやらないと決めたらやれない訳です。そういういち俳優としての気持ちはいつも忘れずに思っております。自分がこれをやりたいからということではなく、自分からというわけではありません」。

 ほかにも、初演から作品を観劇しているという大ベテランの記者からも質問が挙がった。その記者からは「高麗屋さんにお伺いしたいのですが……」と、白鸚の屋号で話を切り出し、これには白鸚も記者の名前を親しみ深く呼びながら「変わらないですねぇ。初演を観た方は会見にはいらっしゃらないと思ったのですが」と、笑顔で応対。質問としては本公演上演後の“見果てぬ夢”はあるかと問いかけ「もうもぬけの殻でしょうね。しばらく歌舞伎俳優としての見果てぬ夢とかを考えるという気持ちは起こらないかもしれません。でも、2022年4月の歌舞伎の公演は決まっております。毎日、毎日やりこなすということで、それが自分にとっての“見果てぬ夢”だと思います」と語りつつ、記者へ向け「お元気で」と言葉を贈る。

 「この会見は始めから終わりまで、みなさんと夢の話をしていると思っております。夢とはそういうものです。みなさんと交わした言葉は夢の夢です。ただ、夢を見るだけではなく、夢を見ようとする心意気だと思います」

 と、語った白鸚は「夢を語った会見と申しました。私にとっては夢はシビアなものでして、それを夢と取るか、夢と取らない方もいらっしゃると思います。しかし、まごうことなくなくきょうの会見は夢でございます。それをお仕事のうえでも、人生の上でも生かして、たかが芝居、されど芝居だと思いました。『ラ・マンチャの男』日生劇場公演よろしくお願いします。ありがとうございました」と、メッセージを寄せた。

 ミュージカル『ラ・マンチャの男』は2022年2月6日から同28日まで日生劇場にて上演予定。

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