天城サリー、河瀬詩、西條和、相川奈央、麻丘真央、椎名桜月、四条月、月城咲舞、望月りのによるデジタル声優アイドルプロジェクト『22/7』(ナナブンノニジュウニ:通称・ナナニジ)が8月6日から8月9日にかけヒューリックホール東京でステージイベント『22/7 Summer Live 2025 ~Toyboxの秘密~』を開催。追加公演を含む全5公演を走りきった。
以下、最終公演「Last Piece」公式レポート部分。
「あなたは考えたことがありませんか?みんなが寝静まった頃、Toyboxの秘密の時間」。
静けさの中、ポツリポツリと落とされた問い掛けに続き、そんな特別な時間の始まりを告げる鐘の音が響き渡ると、おもちゃに扮した7人が動き出す。
そこへ、突然「落ちてきた」西條和演じる見知らぬロボットのおもちゃは壊れているのか動かない。背中のゼンマイを回してあげるとようやく目を覚ましたのだが、先輩おもちゃたちは口々に憐れみの言葉を告げる。
「あなたも捨てられたんでしょう?」「持ち主の〝あの子〟にだよ」「ようこそ、墓場のToyboxへ」――。
そして「大変だー!」と叫び、1曲目の『YESとNOの間に』へ。さらに、かしこまった新入りの肩の力を抜くべく『あざす』で笑顔いっぱいの空間を作り出す。
彼女はどうしてここに落ちてきたのか?どうしたら外へ出られるのか?いっしょに考えていくことにしたおもちゃたち。客席も共に声を出し、フルスロットルで物語の世界へと没入していくのだった。
凛々しく銃を構えるのは、カウボーイ人形役の月城咲舞。「世界的に有名なくまのぬいぐるみ」役の河瀬詩は食いしん坊で、愛らしいラビット役の椎名桜月によだれをたらす。ブリキの兵隊役の相川奈央は、お菓子の国のプリンセス役の望月りのを護衛している。純白の羽がよく似合うバレリーナ人形役の麻丘真央の可憐さに「私には負けるけどね」と張り合うのは、ファッションドール役の天城サリー。
それぞれのおもちゃを体現する衣装は、メンバー自身の個性にもピッタリだ。あらためて、こんなにもにぎやかなキャラクターが揃ったグループなのだと気付かされる。
外の世界へのあこがれを語り合う、カウボーイ人形とくまのぬいぐるみ。2人はセクシータイプのユニット「蛍光灯再生計画」として『僕のホロスコープ』を歌い、遥か彼方に広がる夜空を想起させた。
どうして自分たちが「捨てられた」と思っているのかと言う、ゼンマイロボットの疑問を受け、おもちゃたちは一人ひとりの「問題点」を悲壮なBGMに乗せて告白する。
外に出ると鳥に襲われてしまうお菓子の国のプリンセスの「無糖なのに」というつぶやきが笑いを誘ったほか、「なぜか実年齢以上に思われている」というくまのぬいぐるみや「アイドルをやっているが、本心では卒業するメンバーとずっといっしょにいたい」ファッションドールのアドリブも交えられた。
その最中、巻いた分のゼンマイが終わり動きを止めてしまうゼンマイロボット。それが自分の欠陥だと言って「永遠の原動力が欲しい」と願った。
落ち込んでいたかと思えば、だんだん自分たちの境遇に腹が立ってきたおもちゃたちは『舌打ち』で「チェッ」と反抗心をむき出しにし、『理解者』を求め、さらに『命の続き』で「生きたい」と切実に訴える。
決して無機物ではないおもちゃたちの心の叫びを響かせた楽曲群。ペアになって抱きしめ合うおもちゃたちの姿がせつない。
『僕が持ってるものなら』の優雅ながら物悲しい曲調はまるで人形たちの円舞をのぞいているようでもあり、そこで差し出された手を「欲しいものなんて何もない」とはらう『人格崩壊』へと激しさを増すおもちゃたちの葛藤。
だが、そんなおもちゃたちのコンプレックスを聞いて「完璧な人なんていない」と慰めたのは、ほかでもない、自分ひとりではまともに動くことすらままならないゼンマイロボットだった。
〝あの子〟は欠陥を理由におもちゃを捨てたわけではなく、大人になってもう遊ぶことがなくなっただけだ、と。おもちゃたちは、かつて〝あの子〟と過ごした『優しい記憶』を思い出していく。そしてゼンマイロボットは『僕は今夜、出て行く』でおもちゃたちに見送られ、外の世界へ向かうのだった。
ここは、公演ごとに異なるメンバーがToyboxの外に出て〝あの子〟を元気づけるためにカバー曲でパフォーマンスを披露する一節だ。同日の昼に行われた「Piece4」では、ファッションドール役の天城がうちわや扇風機で送られた風を浴びながら、T.M.Revolution『HOT LIMIT』を歌って沸かせている。
「自分の背中が見えなくて、誰かにゼンマイを巻いてもらわないと動くことすらできない私。でも、こんなうまくいかない感じも、温かい感じも、朝も夜も全部ひっくるめて愛せたらいいなと思う。だから聞いてください」。
会場中が息を呑み、ステージを見守るなか、ゼンマイを外して床に置き西條自身に戻ったともいえる彼女は、白いパーカーを羽織る。それは、6年前に行われていた定期公演のソロコーナーで身につけたものだ。
注目を浴びることがどうしても苦手で登壇することすら危ぶまれていた状況で、目深にフードをかぶり震えながら一人で踊りきったあの日。
まぶしい光の中、彼女のメンバーカラーである白一色に染まる会場でback number『水平線』のカバーを堂々と披露し、舞い踊る姿には、今日へと続く軌跡の美しさそのものが浮かぶ。
パフォーマンス中には、動きが止まってしまい、メンバーたちが一丸となってゼンマイを巻いてあげる場面も。
そのすべてに注がれる優しいまなざし、たくさんの笑顔と涙が錆びた心を潤すかのようにいっそう伸びやかに力強くステージに息づく存在の輝きから目が離せない。
やがて、ゼンマイロボットは告白する。
「みんなが言っていた〝あの子〟は、私なの」。
みんなのことを大人になっても変わらず大切に思っていることを伝えたいと神様に願って、ここに来たのだという。おもちゃたちもまた神様が〝あの子〟に会いたいという自分たちの願いを叶えてくれたのだと喜びに瞳を輝かせる。
その後の『曇り空の向こうは晴れている』における「そんなに強くなんてなれないよね。だから、今はそのままでいいから」という西條のセリフは、これまでに聞いたことがないほどに晴れやかに感じられた。
それを受け止めた望月から生気に満ちた「希望っていうのは、人から人へと繋げていくものなんだ」というセリフ、さらに最後に横並びになった全員からの「伝えて欲しい」という思いは、遠くない未来、3期生を迎える今のナナニジから未来のナナニジへの確かなバトンでもあった。
空が白み、夜通し語り合ってきたことがそのまま歌詞に乗ったような『叫ぶしかない青春』へ。
もともとのおもちゃとしての自信を取り戻したかの軽やかさが感じられる楽曲を経て、夢のような一夜が明けていく。
「こんな持ち主でごめんね」と言う〝あの子〟に、おもちゃたちは駆け寄って言った。『あなたでなくちゃ』と――。
すっかり見入っていた客席からメンバーの名前を呼ぶ力強いコールが湧き上がり、華やかなサマーチューンで物語は大団円を迎え……たかのように思えたのだが……。
外へ出ていこうとした〝あの子〟が「やっぱりダメだよ」と立ち止まる。
ここまでの公演でも、ソロコーナーを担当してきたメンバーが意味深な一言を残してきたラストシーン。
ついに「Last Piece」を迎え、真の〝秘密〟の鍵が開いた。
本当は〝あの子〟は毎晩のようにつらい現実世界からToyboxの中に逃げ込んでいて、おもちゃたちもそれに気づきながら付き合っていたのだ。
欠陥だらけなのは自分だと言う〝あの子〟に、おもちゃたちは一人ひとりの力が彼女の中に宿っていることを教え「もう大丈夫」と背中を押す。
「どんなときも思い出してね」「私たちが過ごした時間はずっと消えないから」と、あふれる涙をこらえられないおもちゃたちに〝あの子〟は笑顔で「うん、友だち」と伝えた。
そして優しく爪弾かれるピアノのイントロは『ヒヤシンス』。
ナナニジファンにとっては、西條が卒業メンバーにしたとある約束を思い出させる曲だ。
赤いライティングに包まれたステージで、西條を芯に大輪の花が開いた。
おもちゃの役を脱ぎ、Tシャツと制服のスカートに着替えて再登場したアンコール。ライブが終わりゆく名残惜しさが『打ち上げ花火の拒否権』ととともに感じられる。
ようやく行われたメンバー自身の自己紹介では、西條が物語を振り返り「〝あの子〟にとってのおもちゃのように、私もメンバーのことが本当に大事だし、メンバーに支えられてやってきたなと思いました」と語った。
そして最後に、15thシングルの収録曲ながらこれまで一度も披露されていなかった西條の卒業曲『イングリッシュ・ゴールデンレトリバー』が歌われる。
両手をグーに握った犬のポーズが愛らしく笑みを誘うが、初期メンバーが考案し「22/7です」と挨拶するときに使われるポーズが振りに入っていところにも、さまざまな思いが去来する。
それは、8月28日に行われる西條の卒業コンサートのプロローグのようにも感じられる終幕だった。
こうしておもちゃたちが寂しさを抱きながらも大人になっていく〝あの子〟の背中を押し、にぎやかなToyboxの蓋は閉じられた。次は、どんな物語が彼女たちを待っているのだろうか?
※文責:キツカワトモ
※写真提供:ソニー・ミュージックレーベルズ
【公演会場・日時】
会場:ヒューリックホール東京
日程:
2025年8月6日(水) 開場18:15/開演19:00 【piece 1】
2025年8月7日(木) 開場18:15/開演19:00 【piece 2】
2025年8月8日(金) 開場18:15/開演19:00 【piece 3】
2025年8月9日(土) 開場13:15/開演14:00 【piece 4】
2025年8月9日(土) 開場17:15/開演18:00 【last piece】
▼last piece公演セットリスト
M01 YESとNOの間に
M02 あざす
M03 僕のホロスコープ
M04 舌打ち
M05 理解者
M06 命の続き
M07 僕が持ってるものなら
M08 人格崩壊
M09 優しい記憶
M10 僕は今夜、出て行く
M11 水平線(back number:西條和カバー曲)
M12 曇り空の向こうは晴れている
M13 叫ぶしかない青春
M14 あなたでなくちゃ
M15 ヒヤシンス
EN1 打ち上げ花火の拒否権
EN2 イングリッシュ・ゴールデンレトリバー
▼各公演ソロカバー曲
piece 1
椎名桜月:miwa『あなたがここにいて抱きしめることができるなら』
月城咲舞:Ado『唱』
piece 2
相川奈央:Reol『第六感』
河瀬詩:千石撫子(花澤香菜)『恋愛サーキュレーション』
piece 3
望月りの:きゃりーぱみゅぱみゅ『もんだいガール』
麻丘真央:JY『好きな人がいること』
piece 4
天城サリー:T.M.Revolution 『HOT LIMIT』