8月23日より昭和女子大学 人見記念講堂で再演されるミュージカル『四月は君の嘘』(演出:上田一豪)稽古場の模様が7月29日に公開となった。
以下、稽古場公式レポート部分。
2022年に初演された日本発の傑作ミュージカル『四月は君の嘘』が、新たなキャストを迎え、8月23日より再演の幕を開けます。新川直司による同名コミックを原作に、ミュージカル界の巨匠フランク・ワイルドホーンが音楽を手掛けた本作。音楽、スポーツに情熱を注ぐ若者たちの出会いや別れ、青春のきらめきやせつなさが瑞々しい音楽とともに描かれています。
初日まで1か月をきった7月末。一幕の通し稽古が初めて行われる稽古場に、撮影が入りました。
全員が広がっての発声練習を終えると、いよいよ通し稽古。演出の上田一豪が「一幕の最後まで繋げてやると見えてくること、チャレンジできることの発見があると思うので、遠慮せずに色々な表現を試してやってみてください。自分はこうやりたいという欲求が舞台上にたくさんあったほうが、エネルギーのある作品になっていくので」と語ると、皆の目に強い力が宿っていきます。
キャストは元天才少年ピアニスト・有馬公生役を岡宮来夢と東島 京、唯一無二の天才的なヴァイオリニスト・宮園かをり役を加藤梨里香と宮本佳林、公生の幼馴染でソフトボールに励む澤部椿役を希水しおと山本咲希、公生と椿の親友でサッカー部キャプテンの渡 亮太役を吉原雅斗と島 太星がそれぞれWキャストで勤めますが、この日の通しは、岡宮、加藤、希水、島の組み合わせ。
冒頭の公生のソロ「僕にピアノが聞こえないなら」で、岡宮の繊細な哀しみを含んだ歌声が響くと、それまで和やかだった稽古場の空気が一変し、作品世界が立ち上がってきます。岡宮の佇まいから孤独を抱える公生が現れ、それを見つめる東島はじめ周りのキャストの真剣な表情も印象的でした。
対して、明るく元気な椿が登場すると、空気の色ががらりと変わり華やかに。希水は友人を思いやる心が滲み出る優しい椿を体現。自分自身が気がついているのかいないのか、かをりに眼差しを向ける公生を見守る表情がなんともいえず胸を打ちます。
島が演じる渡はいかにも学校一の人気者。真っ直ぐに育ってきた気持ちのいい明るさをまとっています。だからこそ、高校最後の試合を終えた後の「The Beautiful Game」の歌声が強く刺さります。
その親友三人に大きな影響を与える個性的なかをり。エネルギッシュで快活でありながら、周りには打ち明けられないことを秘めている女子高校生という難しい役どころを、加藤は持ち前の美しい声、姿勢で表現していきます。はかなくも強いかをりを感じさせました。
アンサンブルもそれぞれが生き生きと作品世界に入り込み、公生、かをり、椿、渡の4人の日常の学校生活の空気まで感じさせる通し稽古。かをりのソロ「旅に出よう」で一幕が終わり、全員を集めた上田一豪は「すごいです!」と第一声。「こうやって繋げていきながら修正をかけていきますが、セットが階段しかない舞台なので、いかに人が空気と時間を作っていくかが大事です。原作の漫画は読んでいる人がページをめくるけれど、舞台ではみんなで一緒にページをめくっていく作業が必要。本のようにめくり返したりできないので、物語を運んでいく時に、その場でどこまでの情報をお客様に伝えていくかも重要。演じる側が、毎回新鮮にその瞬間を生きていることがお客様に伝わっていくので、その新鮮さを10月まで味わい続けて、深めていけたらいいなと思います」と語りました。
その後、場面ごとの抜き稽古は、東島、宮本、山本、吉原の組み合わせでも行われました。東島の公生は自分の内面と葛藤を積み重ねてきた少年の背景や、心の奥にある複雑な思いを感じさせ、宮本のかをりは天真爛漫のなかにも自分の脆さを奮い立たせているような凛とした強さがあり、周りを惹きつけていきます。通し稽古では涙を浮かべて作品に没入していた山本は、透明感のある清々しい椿に。日々を一所懸命生きている女子高生のひたむきさが舞台に溢れていました。この日が誕生日だった吉原は、稽古の途中で「おめでとう!」と大きな拍手に包まれていたように、まさにみんなの人気者。少し大人びてみんなを見守る、お兄さん的な渡が稽古場を和ませていました。
それぞれが魅力的な色を放っている『四月は君の嘘』。4役がWキャストとなるので、その組み合わせによっても全く違うグラデーションが見られることになるはず。全ての色彩を見たい!と思わせる通し稽古でした。
(取材・文=大木夏子)
有馬公生役:岡宮来夢/東島 京
宮園かをり役:加藤梨里香/宮本佳林
澤部 椿役:希水しお/山本咲希
渡 亮太役:吉原雅斗/島 太星