声優・福山潤が7月4日に東京・CBGKシブゲキ!!にて「一人語り朗読劇『作家、46歳、独身』」(作・演出:岡本貴也)を開幕した。
本朗読劇はタイトル通り福山が“全セリフひとり”で行うというもの。作家の心の奥底に触れる限りなく私的な物語を1人で語り切る。
以下、フォトコールと取材会の公式レポート部分。
“一人朗読劇”という名の通り、舞台上には福山ただ1人。さまざまな役をこなしながら90分間喋り続けるという前代未聞の挑戦に挑む。「『自分1人で朗読劇をやったらどうなるんだろう』という興味がずっとあった」と語る福山が、出演作『私の頭の中の消しゴム』『こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇』で脚本・演出を担当している岡本へ、約2年も前に自ら持ち込んだ企画だという。
「劇的で派手な作品は、普段の声優というフィールドの中で十分やっているので、むしろ、周りから見たら地味かもしれないけど、1人の人間の生活をリアルに表現できたらなぁと思っていた」と語る福山。それに対し岡本は「本当に?そんなこと言っていなかったじゃん!」とツッコミ、福山が慌てて「本当、本当に!同業者に聞いたら分かる!」と返すなど、取材会冒頭から2人の仲の良さとお互いに対する信頼がにじみ出ていた。
この日のフォトコールでは、取材会の前に冒頭の20分間のみが披露された。今作は岡本貴也自身の体験を一部もとにして描かれた、とある作家の物語だ。取材会でのやり取りを見るに、福山が具体的にオーダーしたわけではなさそうだが、まさに福山が理想とした“派手さはない、淡々とした日常”が描かれている。それだけ2人が“ツーカーの仲”ということであろう。
開幕のベルが鳴ると、舞台上にコーヒーを片手におもむろに主人公が現れる。どこかをぼーっと見つめながら一口コーヒーを口に含むと、仕事机に座り、そのコーヒーを積み上げられた本の上に無造作に置く。これだけの仕草で、少しだけ彼の“人となり”が表されているようにも感じた。彼は目の前の“誰か”に話しかけるように、「あのね、こんな1日だったんだよね……」と語り始める。なんとなく過去を回想しているようだが、“誰”に語り掛けているかはまだ分からない。仕事がなかった頃、発注されたわけでもない原稿に向き合うしがない作家。出来上がった自信作を各TV局のプロデューサーに送りつけ、満足げな彼は、最後に別居中の妻にもその脚本を送る。それは、彼女へのラブレターでもあるというのだ。しかし、彼がそれを送ったのと入れ違いで、妻からも連絡が入る――『離婚届そっちにあると思うんだけど、なるはやで出してもらえないかな?できれば、明日にでも』。
福山潤といえば、アニメのイベントや座談会などで披露される流れるようなマシンガントークを思い出すファンも多いだろう。今作では、彼のその饒舌さが役としても遺憾なく発揮されている。20分間あった……いや20分しかなかったフォトコールの時間はあっという間に過ぎ、続きが気になって仕方ないところで終わった。“一人朗読劇”ということで福山が1人で何役も演じる、という部分も勿論見所だが、「役者・福山潤が何役も演じている」というよりも、「芸達者な主人公が、自分の話の中に出てくる人物たちのマネをしながら、ずっと“誰か”に語り掛けている」というようにも感じた。冒頭の20分の間にも、主人公の妻や、彼と妻がお世話になった離婚カウンセリングの職員などが登場したが、筆者がそう感じるくらいにはナチュラルな語り口だったのだ。
また、ナチュラルといえば、福山はまるで台本を持っていないかのようだった。まさかこの膨大なセリフを暗記したのかと思ったが、どうやらセットの中のパソコンに台本が表示されており、作家という設定を活かしてそれをスクロールしながら演じていたようだ。それもあまりにリアルな仕草であった。
取材会によると、稽古当初は台本を持ってやる予定だったそうだが、「多分これじゃないんだろうなという感覚があった」という福山。1人の作家が“あがき続ける”90分を視覚的にも面白いパッケージにしたいと考えた結果、岡本と2人でこのやり方にたどり着いたのだという。「演出と演者でアイディアや、それぞれが出来ることをすり合わせながら作れたのは、今までやってきたメディアの仕事とまた大きく違った感覚があった」と語る福山に岡本が「いいでしょ?」と満足気な表情を向けたのが印象的であった。
脚本を初めて読んだ時、福山は「文字媒体で読むと生々しい日常過ぎて、自分を通してどのように演出したら、楽しんで見られるものになるのだろうか」と感じたという。一部は岡本の実体験も混じっているということから、このエピソードは実体験なのか?このエピソードは違うのか?と話しながら稽古を進めた模様で、2人の仲もそこでさらに深まったのであろう。
岡本曰く「主人公が一体“誰”に語り掛けていたのかは、最後に分かる」とのことで、てっきり落語のように観客に語り掛けているのかと思いきや、どうやらそうではない様子だ。岡本は最後に「頭を空っぽにして観に来てもらって、頭を空っぽにして帰ってもらえたら嬉しい」と観客にメッセージを寄せた。福山は「コロナ禍もあって、さまざまな朗読劇が世に提示されてきましたが、こういった試みもまた面白く感じていただけたらいいなと思います。『何かおかしなことをやっているな』って、ちょっとでも興味を持っていただいて、劇場に足を運んでいただき、『おっ、なんか、胸に来るものがあったな……』と思って帰っていただけたら幸いです。舞台上で1人の男が実際にあがきまくっている様を楽しんでいただけたら」と笑顔で締めくくった。
(取材・文/通崎千穂)
一人語り朗読劇『作家、46歳、独身』東京公演は7月4日から7月6日までCBGKシブゲキ!!にて、大阪公演は7月11日から7月13日まで近鉄アート館にて上演予定!