『変な家』などで人気の覆面ホラー作家でYouTuber・雨穴氏が12月16日に東京・赤坂のビルボードライブ東京で『Billboard JAPAN Book Charts』授賞式に登場した。
ビルボードジャパンが日本初となる紙書籍・電子書籍・図書館貸出を統合した総合書籍チャート『Billboard JAPAN Book Charts』を11月6日よりスタート。その第1週目(集計期間:2025年10月27日から11月2日)の総合書籍チャート“JAPAN Book Hot 100”において雨穴氏の『変な地図』(双葉社)が『第1位』を獲得。このことから授賞式を開催することとなった。
『変な地図』は10月31日に発売され1ヶ月で70万部突破と大反響を読んだ。その内容は、雨穴氏作品ではお馴染みの大学生・栗原さんの亡くなった祖母が所持していたという“何かがおかしい古地図”の謎を解き明かしていくというものとなる。
YouTubeで見る雨穴氏と全く同じ装い、そしてボイスチェンジャーを使用する独特な授賞式に。雨穴氏は壇上に素軽く現れると、今回の受賞を前に「トロフィーを頂けるということで、万が一にも滑ってしまってはいけないと思い」というと、滑り止めがついた手袋を装着してきたことをしっかり見せつつ、「この手でがっしりと頂きたいと思います!」と、気合充分といった様子。
そして花束を受け取ると15分以上にわたりとうとうとした受賞スピーチを始めた。以下、主なスピーチ。
「雨穴と申します。よろしくお願いします。まさか自分の人生においてビルボードのステージに立つと思っておらず、大変緊張しております。もしかしたら途中言葉がしどろもどろになってしまうかもしれません。間違ってお面がポロッと落ちるかもしれませんが、そういうときは、緊張しているんだなと見て見ぬフリをしてもらえればと思います」(足元に仕込んだカンペを披露)
「私自身について、こんな見た目と声をしておりますが一応小説家です。ほかにもいろんな仕事をしていますが、本日は小説家で米澤穂信のさんと同業者です」
「“変な”シリーズはいくつか共通点がございます。なんといってもイラストの多さです。小説と漫画のあいのこと私は読んでいます。イラストとか地図がたくさん重なっております。文章とイラストを交互に出すことによってライトな読み心地やリズムが私の本の特色だと思っております」
「ほかにも共通点としてホラーとミステリーを合体したホラー・ミステリーというジャンルで、栗原さんというキャラクターが登場することも共通しております。共通点が多い“変な”シリーズで変な地図は異なる点がございます。過去3作品と何が違うのかと申しますと、誰のために書いたかが違います。過去3作品は100%読者のために書きました。“面白いと思って頂く”自分のエゴや表現欲求はよそにおいて、滅私奉公のつもりで3作品は書きました。それは人生日々生きていると大変なことってたくさんありますよね。会社員なら、苦手な上司と一緒に営業を巡るとか、友達と喧嘩して気まずいとかしんどいことがあると思います。そんななかで雨穴の本を読んでいるときだけは、物語の世界に没入できる。そう思って頂ければこれ以上の幸せにと思っています。素敵な数時間の読書時間をプレゼントするという気持ちでやってまいりました」
「では、『変な地図』は誰のために書いたんだと読者の方に楽しんで頂くというのは30%くらいは自分のために書きました。自分のエゴを出しました。30%のエゴはなんなのかといいますと王道小説というところです。私ずっと王道小説が書いてみたかったんです。こんな格好を自らしておいて何を言っているんだと言われるかと思いますが、王道とか定番商品とか大好きです。ワゴンでいっぱい売られている商品が大好きです。とはいえ、自分に求められるものは王道というより邪道で、変化球、キワモノみたいなものを求められているだろうなというのは理解していましたので、長らく胸の中の文箱に閉まっていました。このことに関してキワモノを待とつしてまいりました。ですが、4作目、自分の集大成になるであろうと強く感じておりましたので、王道小説を書かせていただこうと決心しました」
「雨穴のいう王道小説というのはなんなのかと申しますと、主人公が旅に出て旅先に仲間と出会い、成長し仲間と出会い敵を倒して最後にほろ苦い思い出を残す。それが私の思う王道小説です。この本には地図を挿入しました。実際に王道冒険小説に挑戦してみて、めちゃくちゃ難しかったです。よく言われますが王道が1番大変なんです。やっぱり志村けんさんは偉大だと思いますね」
「ホラー・ミステリーとしての風合いや世界観は維持しつつ残しつつ、そこに王道的な物語を組み合わせることが至難の業で、完成までに10ヶ月以上かかりました。10ヶ月部屋に閉じこもって書いていました。完成するころには前作から長い期間が空いてしまってそうなると不安なのが、世間から忘れされてしまっているのではないか……。泣かず飛ばずになるのではないかとか……。出版社から初版は25万部と聞いたときに、売れ残ってしまうのではないかと不安がございました。実際に発売日を迎えてみますと、初日からたくさんの方に手にとって頂き、全国の書店の書店員さんに、売り場づくりをしていただいて、とても温かい気持ちになりました。あらためて、この本に関わって頂いた、すべての方に感謝したいと思います」
「もしかしたら画面の向こうでこれを見ているかもしれない読者のみなさま、すべてのみなさまに感謝を申し上げます。ありがとうございました。ありがたいことに1位を頂きましたが、私だけの力ではないと思っております。ずっと私の本を待ってくださったみなさま。みなさまに頂いた1位だと思っておりますし、みなさんに拍手をしたいと思います」(壇上で拍手をする)
とスピーチを終えた。
続けて、長々と締まりの無い話をしてしまってすみません。そろそろ(記者の)みなさんのお尻が痛くなっていると持っています。ですが、最後に1つだけやりたいことがあります。せっかくビルボードのステージに立たせて頂いたので、しゃべるだけではもったいないので趣味で作曲してまして、1曲歌を披露させて頂いたら幸いでございます。さすがに生歌を披露する度胸はありませんのでクチパクでやらせて頂きます。(お面で)口は見えませんが。一生懸命歌っているふりもしますので、立って頂いたり、踵(かかと)落としをして、健康に気を使って頂いてもかまいません。好きに楽しんで頂ければ」というと、自身作詞・作曲・編曲の『STORE LIGHT SERENADE~ストアライト セレナーデ~』をキレッキレのダンスとともにパフォーマンスしてみせた。
その後、記者との質疑応答で、約15分のスピーチのカンペがワード3ページ分なことやこのために、「おふとんの上で、エアコンのリモコンをマイクに見立ててやりました」と相当な練習をしてきたことも明かしていた。
さらに、お面について質問が。材料は「世界堂」で仕入れたと言い、紙粘土も「100均の粘土も安くていいですけど、ちょっと高いですけど、質がいい」ものを使っているそう。スペアを持ってる?との質問には、「これだけです。これが割れたら私は終わりです」と実情を話していた。
自身が好きな作家は?という問いかけには、「横山秀夫先生ですね。硬派な文体とか、モブキャラに至るまで、、その人の人生を深く深く掘っていく姿に衝撃を受けまして。自分はこういう作品を書く力がないから、真逆で攻めようという気持ちになりましたね」とコメントしていた。
ほかにも「新人だからといって、東野圭吾さんより安く売られるということはありませんが、文章だけでは戦えないから、なんとか文芸の世界で立っていこうとイラストとかお麺とか動画とか合せ技でと考えております」。
また、同席した阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 研究・開発部 上席部長の礒﨑誠二氏は「1位はキングダムかなと思っていたんです。それで震えたのが、ホラー、ミステリーマニアでしてこの作品をすべて読んでいたんです。すべて買ってもいたので、ヒットチャートでチャートを作っていて、1位になったことがなかったんです。こんなに不思議な気持ちになるのかなって。スタッフに何回も合ってるのかなって聞き直して(笑)。ファンでもありますので光栄です」と興奮気味。さらに、「お会いして大きいんだと感じております」と形容していた。
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ


















