田中裕子「千夜、一夜」へ「風みたいなものをみなさんに」

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 俳優・田中裕子、尾野真千子、安藤政信が8日、東京・テアトル新宿で映画『千夜、一夜』(監督:久保田直/配給:ビターズ・エンド)公開記念舞台あいさつを久保田監督とともに開いた。

 久保田監督が日本で年間約8万人いるという失踪者の事象から作り上げた作品。北の離島の港町が舞台。最愛の夫が姿を消してから30年の時が経ち待ち続ける妻の登美子(田中)。そんな登美子のもとに2年前に失踪した夫・洋司(安藤)を探す奈美(尾野)が現れる。ある日、洋司を見かけた登美子は……。

 まずは久保田監督へ田中の起用の話が振られることに。「田中裕子さんは2014年の『家路』で、前から素晴らしい俳優さんだと思っていました。人として教わることが多くて、こんな素敵な方とまたご一緒したいなって思って。もし自分が撮るなら、またと思っていたんです」と、強く願っていたという。そんな矢先に「(ロケ地の)佐渡ヶ島に行ったんですけど、まずは、登美子の家を見つけたんです。階段があって、そこに座って下を見ると漁村の港が見えて。ここで登美子という主人公は夕日を眺めて座っているのですが、田中裕子さんが座っている感じがしました」と、イメージが湧いてきたという。

 そんな当て書きとなった田中は登美子を演じてみて「セリフはそんなに多くないと思いますが、セリフとセリフの間にいろんなことが感じられるというか。その風みたいなものをみなさんに一番伝えたいと思うんですけど、それが難しくて。いままでもなかなかできなかったと思いますし、今回もできなかったかなと思っています」と、静かに反省を口にして、キャスト、観客共に耳をそばだてて聴き入り、唸らせる様子も。

 尾野へは、作品出演の決め手について質問が飛ぶ。「台本はいい意味で捉えてほしいですけど、地味な映画だなって感じました。近年エンターテインメントでみんなの気持ちを明るくする映画が多いですけど、何かを考えさせようとする映画が少なくなっているんじゃないですか。今回の映画はちゃんと考えさせてくれる。観た人も、私達も考えて出るということを感じて、出よう、やりたいと」と、気持ちが固まっていった様子を。

 田中との共演へ尾野は「1度ご一緒したことがあったのですが、前回やり残していたことがあるなと思っていたんです。今回は面と向かってお芝居できるなと思って」と、自分をぶつけたそうだ。

 安藤も本作出演へ、「自分が役者としての所在地がそのときになく、一人でふらふらしながら、連絡がつくと作品をやっている感じで。今回もどこからか自分を探しだして頂けたんです。自分のいまの人生に、洋司はちょっとだけまんまだなと思って、受けさせて頂いたというか」と、強く共感を感じたよう。撮影では「自分は田中さんとのシーンがメインですが、自分が田中さんを目の前にしていると魔法にかかった感じがするんです。すべて自分の中身から何から見透かされている感じがして。ああいう感覚は初めてでした」と、不思議な感覚に陥ったそうだ。

 撮影中のエピソードとして、田中が「虫を取っている女の子がいて。よく観たら真知子ちゃんでした」というと、観客たちに笑いが起こっていたが、尾野によると、「花を摘んでいました」との説明がされ、再び会場が沸くことも。さらに、尾野は「自分でも強いと思っていますけど、ふとした時に弱いんだと気づくことがありました。それまで『頑張っているから強いんだ、強いんだ』と自分に言い聞かせてきました。でも、自分は弱いんだと気づくような年頃になってきたんだろうなって」と、最近の心情の変化を伝えていた。

 そして久保田監督から本作を作り上げるまでに8年の歳月がかかったということが伝えられるなか、田中から「8年という年月が過ぎましたが、それをたとえれば、千夜一夜の千夜とたとえるならばきょうが一夜です。明かりをつけるときに、ふとこの映画のことを思ってくださることがあればいいなと思います。そんな一夜がありますようにと願います」と、願いを伝えていた。

 映画『千夜、一夜』は公開中!

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